「歯医者さん」僕にとっては、トラウマ的、あの金属音は苦手意識が強い。小学生の時に10円玉を握りしめて(何せ安かった?)岩崎さんに行って、待合室の隅っこで体育すわりをして漫画の本を読みながら待っていた記憶があります。それ以来、ほとんど歯科には寄りつきませんでしたが、平成10年のある日の夜に歯が痛くなって(それまでも時々痛くなっていたかも)一晩中間欠的に押し寄せてくる激痛に一睡もできずに冷や汗をだらだら掻きながらなんとか朝を迎え、8時前からその時勤務していた赤穂中央病院で歯科の先生が出勤してくるのを待ち伏せして、午前診前に治療していただきました。虫歯が膿んでいたようで、被せを外してもらったら、痛みはうそのように取れて、本当に生き返った気分で歯科の大山先生、ありがとうって感じでした。

最近、医科歯科連携の重要性が注目されています。その背景には、口腔ケアが各疾患に良好な影響を及ぼすという研究成果が示されたことがあるようです。開業して以来、歯科の先生と絡むとすれば、ワーファリンを服用している患者さんが、抜歯をするときにお墨付きをいただきたいとのご依頼される紹介ぐらいで、それ以外でお話をすることはほとんどありませんでした。しかし、特別養護老人ホームや在宅での嚥下、食べることへの支援のための義歯調整や誤嚥性肺炎の予防の口腔ケアに始まり、骨粗鬆症薬の顎骨壊死の問題で火がついて、たつの市でも、歯科医師会との懇親会やゴルフコンペなどを催したり、介護認定審査会に歯科の先生も参加してもらうなど医科歯科の連携が行われ、歯科の先生方と顔が見える関係が作られつつあります。姫路の大病院などでも術前や抗がん剤治療の前に、歯科受診をすることで術後の合併症や治療の副作用を軽減する試みが実践されて来ているようです。さらに以前から指摘されていた歯周病が糖尿病や動脈硬化など全身疾患と関係していることなどもあり、医科歯科連携の診療報酬がついたこともその後押しになってきて、この流れはさらに進んでいく様相です。

医科から50点、3ヶ月に1回、120点、厚労省、連携するように

 

抗がん治療

がんは日本人の死因第1位の病気です。一昔前までは不治の病といったイメージがありましたが、近年では治療方法もめざましく進歩し、がんは治る病気、あるいは長く共存できる病気になり、がん患者さんの6割は、治療を乗り越えて社会復帰を果たしています。がん治療は「ただがんが治りさえすればよい」という段階から「なるべく治療の苦痛は少なく、かつ安全にがん治療を乗り越える」ことにもきちんと目を向け、その上で治療の効果も当然確保することが求められる時代になってきました。

抗がん剤 副作用

 

抗がん剤治療による口の副作用

抗がん剤の治療中には、薬の副作用によって様々な口の副作用が起きます(表1)。その頻度は高く、米国の国立がんセンターの報告では、一般的な抗がん剤治療を受ける患者さんの約40%、造血幹細胞移植治療のような強い抗がん剤治療を受ける患者さんの約80%に口に関係する何らかの副作用が現れると報告しています。口の副作用は、痛みで患者さんを苦しめるだけではなく、食事や会話を妨げ、口の細菌による感染を引き起こすなど、がん治療そのものの妨げになります。そのためがん治療を開始する前に歯科で口のケアを受け、合併症を予防しようとする取り組みが行われるようになってきました。

口内炎は、口腔内合併症の代表的なもので、ほとんどの抗がん剤治療で口内炎が認められています(写真1)。口内炎はふつう、抗がん剤投与から1週間から10日くらいで起こり、その後は自然に治っていくのですが、全身状態が悪かったり、口の清掃状態が悪く細菌が多いと、口内炎の傷から感染が起こり、症状が重症になったり治癒が遅れたりします。抗がん剤治療によって口内炎になった人の約50%が重症の口内炎のために、抗がん剤の投与量の減量や治療スケジュールの変更など、がん治療そのものに悪影響を受けています。

またほとんどの抗がん剤治療中は、骨髄抑制といって、細菌に対する体の免疫力が低下する副作用があります。実際、むし歯や歯周炎などの歯の治療がされていない状態で抗がん剤の治療が始まってしまうと、今まで症状のなかった歯が急に悪化し、痛みや腫れが起こることがよくあります(写真2)。また細菌の感染に限らず、カンジダ(真菌:カビの一種)やヘルペスウイルスなどの特別な感染症も起こりやすくなります(写真3)。副作用のリスクを下げ、少しでも症状を和らげ、一日でも早く治す為には、口の中を清潔で整った環境にしておくといった、いわゆる「口のケア」が有効であることが様々な研究で報告されています。がん治療の開始前、できれば2週間前までには歯科を受診して、がん治療中も継続して口腔内を清潔で良好な環境に維持するよう努めることがとても大事です。

 

放射線治療による口の副作用

口や喉のがんで、放射線が口の周辺にあたる治療を行う場合は、ほぼ全員に口の中に何らかの副作用が現れます(表2)。口腔の副作用で最も多いものは口内炎です。抗がん剤治療による口内炎と比べて重症で長引く傾向があります。放射線治療が始まり1~2週間くらいで口の粘膜はだんだんと赤み帯びて、腫れぼったくなり、ひりひりとした軽い痛みを感じるようになります。その後治療が進むにつれて粘膜炎は強くなり、強い痛みが続き、重症の場合は水を飲むことも辛くなります。放射線治療が終わると通常は3~4週間ぐらいかけて少しづつ粘膜は元に戻ってきます。しかしその途中で傷に感染を起こしたりすると、治りが遅くなることもあります。口の副作用がひどくなると、治療を続けることができなくなってしまうこともあります。放射線治療は途中で止めてしまったりお休みをしたりすると、治療の効果が弱まってしまうことが知られています。そのため治療が最後まで予定通りに順調に進むように、口のケアによってできるだけ副作用を抑えていく必要があります。

また放射線によって唾液の量は減り、ネバネバになります。この影響は年単位で長く続き、完全には回復しません。唾液が少ないと、口の中がガサガサと不快になり、食事の味も感じづらくなります。また汚れがこびりつき、口の細菌が増えやすくなるため、感染を起こしやすくなり、非常にむし歯ができやすくなります。そのため放射線の治療が終わったあと、急にむし歯だらけになってしまう(放射線性う蝕と言います)ということもあります。

そして最も重症な副作用が、放射線による顎骨の壊死(顎の骨が腐る)です。放射線が当たった顎の骨は、ちょっとしたことがきっかけで感染を起こし、壊死を起こすことがあります。最も多いきっかけは抜歯です。放射線治療が終わって何年か経過すれば安全に抜歯できるだろうと思われがちなのですが、実際は放射線治療後何年経っても、顎骨壊死の危険性はほとんど変わらない、と言われています。放射線治療が終わった後も、抜歯をしなくて済むように定期的に歯科で口のチェックやケアを受け続ける必要があります。

がんの外科手術

最近ではがんの手術を安全に乗り越えるため、手術前に口のケア受けることの有用性も注目されています。がんに限らず、全身麻酔で手術を受ける患者さんは、人工呼吸器のチューブが口から喉を通して気管の中に挿入されます(気管内挿管といいます)。この際、気管のチューブを通して肺に入り込んだ口の細菌が、術後肺炎の原因となることがあります。また、チューブを気管に入れる時に、歯を痛めてしまい抜けてしまうこともあり、手術後の食事開始の妨げになることもあります。手術を受ける前にあらかじめ口のケアを行うことで術後の肺炎を予防し、歯を守り、手術後の食事開始を助けることで、回復を早める手助けとします。

口内炎の治療

(1)口の中をきれいにして、感染を予防する。口内炎に感染を起こすと、痛みは急に強くなります。感染予防には、歯ブラシによる口の清掃が基本となります。痛い部位に触れないよう、やさしく歯ブラシを行います。またカンジダ(カビの一種)やヘルペスといった特殊な感染が起こることもあります。カンジダの感染は「じっとしていてもヒリヒリ、ピリピリする痛み」が、ヘルペス感染は「針で刺すような激しい痛み」が特徴です。

(2)口の中を潤った状態に維持し、乾燥させないようにする。粘膜が乾燥すると、痛みは強くなりやすく、感染も起きやすくなります。軽度の口内炎は、口が潤っただけで症状が和らぎます。うがいを頻回に行い、粘膜が乾かないようにします。保湿効果の高いうがい薬や、ジェル・軟膏・スプレーなど自分の症状にあったものを選んで使います。

(3)痛みを和らげるよう、様々な痛み止めをしっかり使う。痛みを我慢しても、良いことは一つもありません。粘膜炎の痛みには、痛み止めの薬が効きますのでしっかり痛み止めを飲みましょう。また、表面麻酔薬という粘膜の知覚を一時的に麻痺させる薬を痛む部位に直接塗ったり、うがい薬に混ぜて使うことで、痛みが和らぎ食事が摂りやすくなります。

長く大変ながんの治療中は「食べる」ことが患者さんにとって、とても大変な作業になることがあります。健康な口でしっかり食べられることは、体力を維持しつらい治療を乗り切るためにとても大事です。 がんの治療を安全に、苦痛少なく乗り越えるためには「口から自然な形で、おいしく食事が食べられること」が、大きな鍵の一つなのです。

 

顎骨壊死

がんが骨に転移した時の治療の一つに、転移した部分の骨折などを予防し、痛みを和らげるために、骨を強くする薬剤(ビスフォスフォネート製剤や抗ランクル抗体といった、骨修飾薬と呼ばれる薬)を使用することがあります。この骨修飾薬を長い期間使用すると、顎骨壊死(顎の骨が腐る)という重症な副作用が起きることがあります。この副作用の起こる割合は1~2%程度と決して高くはないのですが、もし起こってしまうと痛みで食事や会話を妨げる上、治療に苦労することが多いため、起きないように予防することがとても重要です。また最近では、骨粗鬆症の治療としてビスフォスフォネート製剤を使うことが多くなってきて、顎骨壊死との関わりが取り沙汰されるようになってきました。顎骨壊死の副作用は、口の衛生状態が悪く細菌が多いと起きやすく、また歯を抜いた傷から起きることが多いです。予防には骨修飾薬を使い始める前に必ず歯科を受診し、問題のある歯はあらかじめ抜歯をしておくこと、口を清潔に保つための衛生指導(歯ブラシ指導など)を受けておくこと、また投与中も口の衛生状態に気を配り、定期的な歯科のチェックやケアを行うこと、薬剤使用後は抜歯をできるだけ行わないことが大切です。