うつ病  Edit

うつ病のお話しですが、最近は自殺の話題から始めることが常道のようです。

自殺者数の推移

我が国では、年間10万人あたり、25人が自殺しています。全体として1億何万人で計算してみると、だいたい3万人にということになるわけです。パッと見てわかるのは、男性が2倍多いことがわかります。

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世界では、どうでしょうか。旧ソ連、東ヨーロッパの国々の自殺率が高いのが目立ちますが、それらに次ぐ日本の自殺率の高さはなんなんでしょうか。裕福さと国民性?失われた十年と言われる時代のギャプの影響でしょうか。

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我が国の死亡原因のベスト3は、がん、心筋梗塞脳卒中で、自殺は6位となっています。

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また、健康寿命という人生の質から考えた最もらしい見方もあり、寝たきりで長生きしても仕方ないのではというのは納得できますよね。

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さらに、ここで、自殺(うつ病)を考える場合の物差しとしてでてくるのが、障害を調整した生存年数(健康ロスの大きさ)つまり、50年間すごく健康で生きて突然死するのと、半分ぐらいの健康度で100歳まで生きるのは同じ扱いになるわけです。この指標を用いると、自殺は、第5位(うつ病 2位)あの手この手でいろいろ考えますよね。

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下図の緑色が自殺です。10歳代から30歳代までの死亡原因のトップは自殺なんです。決して、病気や事故で死んでいるわけではありません。若い人の死って、80歳や90歳になって、大往生ですねっていうのと、ちょっと違いますよね。

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自殺って、殺人(他人を殺す)とは違って、個人の自由な意思や選択で死ぬのにどこが悪いという風潮がありますよね。このような国民性については、歴史的に責任を取るための自殺や自己犠牲のための自殺が行われてきたという歴史性を指摘するものや日本人は自殺に対して寛容な文化を有するという指摘もある。人に迷惑をかける?確かに、残された家族には大きなトラウマを抱えさせるという場合もあります。世界保健機関(WHO)の自殺死亡者に関する研究では,自殺で亡くなられた方の約90%以上の方が、自殺既遂におよぶ直前には、何らかの精神科診断に該当する状態を有していたことが示唆されています。つまり、自殺は、自分の意志というよりは、病気で合理的な判断ができずに自殺に追い込まれているとなると、治療が必要であり、一方でへたに介入する事で、自殺をお手伝いする?((アクチベーション症候群)はめにならないようにしなければなりません。

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自殺とうつ病などの精神疾患との関連は非常に強く、特にうつ病の割合が高いといわれています。自殺を予防するためには、うつ病の早期発見・早期治療を促す施策が進められています。また、自殺者の2~3割に物質関連障害(アルコール・薬物依存)への罹患が認められることが明らかにされており、失職や逮捕などのために社会的に孤立し、自殺に至る危険が高いといわれています。さらに、アルコールは酩酊によって衝動性を亢進させ、自殺行動を促します。



さて、自殺の契機(原因)は?と続きます。健康問題が一番多く、経済問題、家庭問題と続きます。健康問題の内訳としては、うつ病が原因として最も多い。

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自殺の予測因子で自殺を察知する事は難しいと言われています。うつ病の患者さんは、実際に自殺を実行する前に、様々なサインを発することがあります。家族など周囲の人は、そうしたサインに気づくことで、自殺を未然に防ぐことも可能となります。 まだ危険性が低い段階で「死にたい消えてしまいたい」「生きていてもしかたない」「世の中が嫌になった」などの言葉を口にします。これは希死念慮と言われ、自殺を考えることはあってもすぐに行動に移る段階ではありません。この時点で家族や周囲の人は自殺のサインを上手にキャッチして、患者さんの話を共感しながら真剣に聞くことが重要です。田舎で診療していると、元気なおじいちゃん、おばあちゃんでも、長生きしすぎて、心ない?家族からないがしろにされて「早く死にたい・・・」と自分から言われる人は結構います。だからといって、みんな自殺するわけではないですよね。うつ病の場合は、自殺については、診察中に話題に出した方が良いと言われています。つらそうに見える人には「死にたいと思ったことはないですか」と率直に聞いてみた方が、本人は楽なようです。とくに、うつの人で(真面目なので)死なない約束ができる人は大丈夫なようです。更に段階が進むと、具体的な自殺の手段や場所など細かいことまで考えるようになり、急に明るくふるまったり、身辺整理を始めたりするなどの異常な行動がみられるときには、ためらわずに、無理やりにでも専門医療機関を受診させましょう。

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このうつ病による社会的損失をなんとかするために、厚労省は地域医療計画の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定してきた、がん・脳卒中急性心筋梗塞糖尿病の4大疾病に、新たに精神疾患を加え、5大疾病にする方針を決めた。

 

 

 

2011年7月8日 日経新聞

 



さて、うつ病のお話しを始めましょう

「うつ」とは、こころにわだかまりがあって、気持ちが晴れ晴れしないこと。憂鬱。これは、だれにでもある気持ちですよね。喜怒哀楽なかったら、人間ではありませんね。「抑うつ」とは、うつと同じ言葉なんですが、うつ病を意識して、うつ病の前段階やうつ病の症状のひとつとしてうつという症状を表す時に抑うつと言います。では、健康な人にも見られる抑うつ気分と病気であるうつ病の線引きはなんでしょうか。うつ病は、一定期間、うつ気分が続きます。昨日はうつで、今日はうつではないということはありません。また良いニュースがあっても気分が晴れません。いろいろと助言しても思考に柔軟性を欠いているため奏功しません。健常者の一過性の抑うつ気分は気分転換で改善傾向になりますが、うつ病の人を家族の方がよかれと思いちょっと連れ出してみようものなら、疲れて帰ってくるのがおちで良くなることはありません。「うつ病」とは、死にたいとてもつらい、つらさを紛らわすために大酒を飲んで体をこわした、学校に行けない、学校へ行けない、家事ができないなど、実際の生活が破綻しているのがうつ病です。憂鬱な気持ちだけではうつ病ではありません。臨床的に著しい苦痛や社会的な機能の障害がなければうつ病ではありません。



うつ病は、治療が必要なんです。放っておくと死ぬかもしれない病気なのです。以前、「こころのかぜ」と呼ばれたこともありますが、そんなに簡単に治る病気ではないのです。日本におけるうつ病の生涯有病率(一生のうちに少なくとも一回はうつ病にかかる割合)はおよそ15人に1人と言われています。12ヶ月間有病率(現時点でうつ病と診断)は、2.2%です。(つまり、一般住民が100人いたら、2〜3人がうつ病です)ありふれた病気です。やはり、プライマリーケア医としても、うつ病の診断はできないとまずそうですよね。

 

 

図2

 

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心療内科を受診して「うつ病」と診断された患者さんの受診歴調査において、初診で精神科、心療内科などの専門医を受診していたのはわずか1割でした。最も多いのは内科で64.7%です。しかし、僕の印象では、確かに「軽症うつ」「抑うつ反応」「適応障害」「気分変調症」などと診断されている”うつまがい”はたくさん来られていますが、本物はそれほどたくさんいないのではないかと思っています。

 
 



うつ病の診断

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専門の先生が使う「うつ病」の診断基準です。我々素人には、ちょっと使いづらいですよね。

まず、うつ病を疑うことが大事ですが、だからと言って、いきなり、

  • 「この1ヶ月間、気分が落ち込んだり、憂鬱になったりすることがよくありましたか?」
  • 「この1ヶ月間、物事に対して興味がわかない、あるいは心から楽しめない感じがよくありましたか?」
    の質問は聞きづらいですよね。


    では、僕らがうつを診断するにはどうしたらいいでしょうか?

まずは、うつ病の身体所見として頻度の高い「ごはん食べれますか」「よく寝れてますか」から話を始めます。そして、もし食欲不振、不眠があれば、(1)(2)を聞きにいって、どちらかがひっかかって、ほとんど一日中、ほとんど毎日、2週間以上続くとなると、うつ病の可能性が高いと考えます。

イラ07イラ06
食欲不振          不眠

 

「うつ病」の診断って、結構難しい

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うつの患者さんが、内科を受診される時、どんな感じで来られるでしょうか?心療内科を受診される時のように、自ら「興味が出ない」「仕事ができない」「気分が沈んでいる」などと最初から話してくれません。どちらかというと隠します。どうでしょうか?うつ病の患者さんをうまく拾い上げられそうですか?、単に不眠症、胃腸の疾患にしてしまいそうですよね。鑑別疾患としては、甲状腺 薬物(β遮断薬、インターフェロン、経口避妊薬、エストロゲン補充療法など)膵臓がん 認知症などがあります。また、不定愁訴が5つ以上あるとうつ病の可能性が高るようで、こういった患者さんは、漢方の得意分野でもあります。

 
 
 
 



うつ病の症状(患者が自覚しやすいもの)

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うつ病の患者さんが、訴える症状は、不眠が一番多く、体がだるい、頭痛と続きます。精神症状は、こちらから聞かないと言ってくれないのです。常に、こういったキーワードをきっかけに、「うつ病」への質問を発することができる準備が必要なんです。たとえば、不眠の訴えに対して、睡眠薬を処方して、2剤併用しても全く効かないなんて場合は、うつ病を疑います。食欲がない、胃が痛い、体重が減る、しんどいから点滴して下さいなどと言われて、いろいろ調べたけど原因疾患がはっきりしない場合はうつ病が合併していることもあります。この中にはありませんが、微熱が続く(37.5度まで)と訴える人もいます。熱の原因を除外したうえで、うつ病になると不安で落ち着かないため、交感神経優位な状況となり発熱することもあるようです。また、疼痛閾値が下がって、頭痛や口の痛み、舌痛症などを訴える場合もあります。

 

うつ病の症状は、心と体の両方に現れます。このような症状が2週間以上も続いているのに、理由がわからない時は、かかりつけ医を受診してみましょう。

イラ01イラ02イラ03
気分・感情障害     意欲・行動の障害     思考の障害

 



うつ症状は、半数近くの人が、朝起きたときに最も強く、その後、夕方には少しよくなる傾向がありますが、決して”快調”になるわけではありません。(調子は悪いが、朝よりはまし)

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また、既にかかっている患者さんの中にもうつ病は隠れています。慢性疾患のうつ病の有病率はもっと高いわけです。(特に、がん患者や心筋梗塞糖尿病は高い)実は、一般診療所では、身体疾患を抱えた患者さんには、8%がうつ病というデータがあります。血圧が急に上昇したり、血糖のコントロールが急に悪くなったりすると「薬をちゃんと飲んでるの」「なにか食べたんじゃないの」「ちょっと飲む量が増えてませんか」と言う前に、「なんかストレスありません?なにか心配事がありませんか?」って聞いてみましょう。ピンポン! 当たったら、後は放っておいてもボロボロ出てきますよ。

 

 

治療の基本は、「休養」と「薬」です。

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しかし、仕事をせずに、薬を飲んで、家でぷー太郎生活をすればいい?わけですが、うつ病の患者さんには、これが難しいわけです。

うつ病は、いい人(気遣いがすごい)まじめ、責任感が強く、献身的(自分が悪い)な人がなります。しかし、まじめだけに、休養すること=さぼることと考えがちです。また、うつ病は、心の弱い人がなるというのがまだまだ一般的なイメージで、ただ「うつ病ですよ」って診断して、薬を出したとしても、うつ病の治療をするという抵抗感があり、すぐ薬を飲むのを止めてしまう治療中断がとても多い病気なのです。しっかり休養して、薬を飲んでもらうためには、本人が、「うつ病」という病気について十分に納得する必要があるのです。


まず、「うつ病」は、誰もがなる可能性が病気であり、必ず治る病気であることを説明します。(治療をすることで自殺を減らすことができる)うつ病は、脳のホルモンが減って、いろいろな症状がでる病気です。その症状のひとつに衝動を制御することの障害で、焦燥感や自殺したい気持ちにさせられてしまう病気なんで、治療が必要なんです。

 



抗うつ薬

内科医が、軽症のうつ病の治療へ介入できるようになったのは、このSSRI/SNRIという副作用が少ない?お薬が発明されたからです。

年表

 

それぞれの抗うつ剤の作用をまとめてみます。古くからある抗うつ剤は、さまざまな物質に影響を及ぼすことがわかりますね。これらが副作用となるのですが、四環系抗うつ薬は、ヒスタミンの作用により眠気の強いお薬です。このため、睡眠薬として使われることの方が多くなっています。眠気とのバランスがとれれば、抗うつ効果も期待できます。SSRI・SNRI・NaSSAは、2000年以降の新しい抗うつ剤です。

抗うつ薬

三環系抗うつ薬トフラニール(イミプラミン)トリプタノール(アミトリプチリン)

一番歴史の古い抗うつ剤です。効果が強いのですが副作用が出やすく、便秘、口の渇き、ふらつき、眠気、体重増加などがおこる頻度が高いです。

四環系抗うつ薬テトラミド(ミアンセリン)
三環系抗うつ薬の副作用を軽減するために開発されたもので、三環系抗うつ薬に比べると効果がマイルドになっています。ノルアドレナリンだけに作用し、気力や意欲の低下には効果が期待できますが、セロトニンへの働きが無いため、落ち込みや不安に対する力が弱いのが特徴です。副作用として眠気が出やすいですが、それを反対に利用して、睡眠薬の目的で処方されることが多くなっています。

その他の抗うつ剤デジレル/レスリン(トラゾドン)ドグマチール(スルピリド)エビリファイ(アリピプラゾール)

レスリン/デジレルは、効果はマイルドで睡眠を深くする特徴があるので、睡眠薬として処方されることが多くなっています。

ドグマチールは胃薬として開発されたお薬で、使われていくうちに抗うつ効果が分かったお薬です。少量で使うことで、ドパミンを増やす効果が期待されます。

エビリファイは統合失調症などの治療に用いられる抗精神病薬ですが、少量だと他の抗うつ剤の効果を助ける作用が期待されるため、SSRIやSNRIと併用して処方されることがあります。ドグマチールと同様に、ドパミンを増やす効果が期待されます。

抗うつ剤は、脳内でモノアミンと呼ばれる神経伝達物質を増やす作用が認められます。うつ病の患者さんではモノアミンが減少していることから、このモノアミンの量を調整することで脳内のバランスを整え、つらい症状を改善していくと考えられています。(モノアミン仮説 これだけでは説明がつかないことも多い)

うつ病と関係する神経伝達物質として、以下の3つがあげられます。セロトニンが減ると不安や落ち込みが強くなり、ノルアドレナリンが減ると意欲や気力が低下し、ドーパミンが減ると興味や楽しい感情を失うといわれています。

 

抗うつ剤は、不安の病気にもよく使われます。パニック障害や社交不安障害などの不安障害、強迫性障害などにも適応が認められています。セロトニンが増えることで、とらわれが少しずつ薄れていきます。現在の主流は、比較的副作用の少ないとされるSSRIやSNRIやNaSSAになります。ですが、三環系抗うつ薬など古いタイプの方が優れた効果を発揮するケースもあるため、それぞれの患者さんに応じ、もっとも適切と判断されたものを選んでいきます。

プライマリーケア医が出すのは、SSRI/SNRI(NaSSA) ベンゾジアゼピンまでです。これで効かなかったら紹介です。三環系抗うつ薬やリチウム製剤などは完全に守備範囲を超えていますので、専門医に行ってもらいます。

抗うつ薬

 

では、なにを使うか?抗うつ剤を比較検討した有名な研究があります。この研究は、12種類の抗うつ剤の有効性(効果)と安全性(副作用の少なさ)を比較した報告(MANGA study 2009 Lancet)です。レクサプロやジェイゾロフトは効果と副作用のバランスが良いお薬として紹介されています。レクサプロは、初期投与量と維持量が同じなので、様子をみながら(副作用と効果)漸増する必要がなく、プライマリーケア医には最適なお薬として第一選択にしています。

 

MANGA STUDY

 
 
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SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)パキシル(パロキセチン)ジェイゾロフト(セルトラリン)レクサプロ(エスシタロプラム)ルボックス/デプロメール(フルボキサミン)

うつ病の患者さんは、神経伝達物質であるセロトニンが少なくなっています。うつ病のお薬は、このセロトニンの分泌を促したり、再取り込みを邪魔してその働きを増やすわけです。セロトニンだけを増やすように開発された抗うつ剤で、従来の抗うつ剤よりも副作用が少ないのが特徴で第一選択薬としてよく用いられます。セロトニン不足の関わる不安や落ち込みには優れた効果を発揮することが多いですが、意欲や気力に関わるノルアドレナリンにはほとんど作用せず、そちらの問題を改善する力は弱くなっています。副作用は出にくいですが、飲み始めの頃に吐き気や胃の痛み、下痢などが見られることがあります。また、睡眠や性機能に支障がおこることもあります。多くの場合は飲み続けるうちに体が慣れ、副作用は軽減していきます。ただ、飲み忘れたり急に中止したりすると、離脱症状と呼ばれる強い反応がおこることがあるので注意が必要です。

一般的に抗うつ薬は、治療有効濃度まで漸増していかなければならないという煩雑な作業が必要です。最初から高用量投与すると発疹や頭痛、嘔吐などの副作用が出ます。デプロメールは、50mgから始めて150mgまで増量、効果は弱い。25mgだけ漫然と出されていることもあるが、これでは全く効果は期待できません。

 
 
SNRI(抗うつ薬)の仕組み
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)サインバルタ(デュロキセチン)トレドミン(ミルナシプラン)

SSRIと同様に副作用が少なく、うつ病治療の第一選択薬となっています。脳内でセロトニンが減少すると、不安、焦燥感、不眠、気分の落ち込みといった症状が出やすく、ノルアドレナリンが減少すると、気力や意欲、行動力、判断力が低下すると言われています。セロトニンだけに働きかけるSSRIと異なり、ノルアドレナリンにも作用するため、不安や焦り、落ち込みなどのうつ症状と、無気力、意欲の低下などへの効果が期待されます。ノルアドレナリンには痛みを軽減する作用もあるため、慢性的な痛みがある方に使われることも多いお薬です。副作用としてはSSRIと同様に胃腸障害の他、不眠や便秘、尿閉や口渇とふらつきやめまい、眠気、性機能障害等が見られる場合があります。

 
 NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬)レメロン/リフレックス(ミルタザピン)
 
新しいタイプの抗うつ剤の中で、もっとも効果が強いと言われています。減少したセロトニンとノルアドレナリンの分泌を促し、セロトニンが効率良く働けるように作用します。効果には優れていますが、飲み始めに強い眠気と食欲増進の副作用が認められることが多く、不眠や食欲不振に悩む人にはそれがいい作用ともなりますが、仕事や育児などをしていて眠気が困る人には向かないことがあります。
 
 
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真面目で、途中でなげだせないので、頑張りすぎてうつになってしまいます。社会的にはいい人ですが、あなたの体には悪い人なのです。酷使した体を休ましてあげましょう。休養することに罪悪感を持っています。頑張ってさぼりましょう。うつ病の休養は、正常な人の休養とはちょっと違います。うつ病の場合は、全てを楽しいと感じられなくなっているので、旅行に行ったり、映画を見に行ったり、人と会ったりすること(決まった時間に予定通りするというのがとても苦痛)は大変負担になります。最初の1週間は、放ったらかしにしたげるのがいいのです。めざせ寝たきり状態です。

 

うつ病は、「心の骨折」です。(山田以先生はうまく言いますね)ある程度、良くなるまでは、休養が必要で(安静にして)1〜3ヶ月はかかります。よくなったらリハビリにさらに数ヶ月かかります。うつは、治るのに最低でも3ヶ月〜半年はかかるわけです。抗うつ薬は、4週間ぐらい連続して服用してやっと効くお薬です。効果が感じられるまでの最初の段階で、まずは抗不安薬や睡眠薬(抗ベンゾジアゼピン系)を併用して、イライラや不安を解消してあげましょう。

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うつ病は、3〜6ヶ月で治りますが、再発もしやすい病気です。人生を楽しむことが一番の薬です。元気になられたら何がしたいですかなど趣味などを聞きながら、1〜2年は、抗うつ薬を飲みながら、経過観察するのが無難です。

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抗うつ剤の副作用

 

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前述したように、うつ病の患者さんは、ちょっとしたことで怠薬しがちです。アドヒアランスを上げるためには、副作用(眠たい、吐き気、下痢など)が、起こる3日以内に、なにかあれば、直ぐに連絡するように伏線を張っておくことが大事です。

 
 
抗うつ剤は、飲み始めに副作用が強く出てしまうことが少なくありません。そのためまずは少量から始めて、副作用が出てこないか様子を見ながら(多少の副作用であれば、慣れてくることがほとんどです)問題がなければ、2週間をめどに効果を判定しながら少しずつ治療有効濃度まで漸増していかなければならないという煩雑な作業が必要です

 

副作用

副作用

 

飲み始めは賦活症候群(activation)といって、抗うつ剤によって中枢神経が刺激されることによって、不安や焦燥感、イライラが急に高まってしまうことがあります。とくに若い人では、自殺も問題があり、注意が必要といわれているので、若い人のうつ病は、最初から紹介の対象になります。

そして抗うつ剤服用中は、ターゲットであるセロトニンやノルアドレナリンが過剰に作用した場合とターゲットでないアセチルコリンやヒスタミン、α1がブロックされた場合に以下のような副作用が認められます。セロトニン:嘔吐・下痢・不眠・性機能障害、ノルアドレナリン:動悸・尿閉、抗コリン:口渇・便秘・尿閉、抗アドレナリン(α1):眠気・立ちくらみ、抗ヒスタミン:眠気・体重増加

SSRIやSNRIではセロトニンやノルアドレナリンに対する過剰作用による副作用が多いですが、NaSSAでは、抗ヒスタミン作用による眠気や体重増加が副作用として強く認められます。

その他にも様々な副作用がありますが、いずれも頻度は少ないです。心臓の電気活動に影響して不整脈を起こしやすくすることがあるので、この点は注意が必要です。心電図をチェック(QT延長)していきます。

そしてお薬をやめていく時には、離脱症候群に注意が必要です。薬を長期で服用していると、薬がある状態にからだが慣れてしまいます。急にお薬が抜けると、調子が悪くなります。ゆっくりと計画的に減薬していくことが必要です。

 

抗うつ剤の副作用の比較

それでは、それぞれの抗うつ剤でどのような副作用が認められるのかまとめてみましょう。

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古くからある三環系抗うつ薬は様々な物質に影響するため、副作用が全体的に多いです。便秘・口渇・ふらつき・眠気・体重増加などの副作用が目立ちます。それに対して新しい抗うつ剤は、作用がしぼられているので副作用は少ない傾向にあります。セロトニンを刺激しすぎることでの副作用が目立ち、性機能障害・吐き気・下痢・不眠が目立ちます。離脱症状としては、新しい抗うつ剤の方が多いです。新しい抗うつ剤は慣れると副作用が少ないのですが、やめるときには慎重に減量していく必要があります。

抗うつ剤の副作用への対処法

抗うつ剤の副作用が認められた場合、以下のように対応してください。

  • 明らかに異常なとき→中止
  • 生活に大きな支障がある→中止
  • 何とか生活はおくれる→数日がまん

 

SSRIで副作用が現れにくい理由 

三環系や四環系で副作用がでやすいのは、抗うつ薬がセロトニンの取り込み部位以外にもくっついてしまい、これが原因となってからだに影響がでるためです。特にアセチルコリンやヒスタミンなどの神経伝達物質の受容体にくすりがくっついてしまうことが多く、これによって口渇や便秘といった副作用が現れます。

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SSRIが従来の抗うつ薬と違って副作用が現れにくいのは、くすりがうつ病に関係するセロトニンの再取り込み部位のみにくっついて、ほかの受容体には影響を及ぼさないためです。
「抗うつ薬の特徴」のところでもお話ししましたが、抗うつ薬は服用を続けなければいけないくすりです。そのため、SSRIのような副作用の少ないくすりは、服用を続けやすいかもしれません。

副作用はどのようなものでも、時間がたつにつれて慣れていく傾向にあります。何とかなりそうであれば、できれば数日様子を見ていただければ慣れていくことが多いです。

完全に慣れてくれればよいのですが、副作用が続く場合は対処法を考える必要があります。

  1. 薬を減らす
  2. 他の薬にかえる
  3. 副作用をやわらげる薬を追加する

これらは効果と副作用の兼ね合いで考えていきます。効果が十分ならば①になりますし、薬を続けるメリットがあるのでしたら③になります。副作用によっては、生活習慣で改善が期待できるものもあります。

対処法

効果という面ではNaSSAが優れていますが、ヒスタミン作用による眠気や食欲増加が強いお薬になります。効果と副作用のバランスがとれているお薬として、SSRIのジェイゾロフトやレクサプロ、SNRIのサインバルタなどが良く使われています。
 
抗うつ剤は、飲み始めてすぐに効果が実感できることは多くありません。一般的には、効果が出てくるまでに2週間~1か月ほどはかかるといわれています。このタイムラグがモノアミン仮説だけでは説明がつかない部分になりますが、効果はジワジワ出てくる傾向にあります。不安や不眠といった症状に対しては、薬によってはすぐに効果が期待できることもあります。少なくとも半年~1年は抗うつ剤を服用していきます。そして症状が本当に安定したのちに、生活の変化が少ない時期に少しずつ減量をすすめていきます。
 
 
抗うつ剤の妊娠や授乳への影響

抗うつ剤は、長期間にわたって服用を続けることも多いお薬になります。ですから女性の場合は、妊娠や授乳への影響も考えていく必要があります。

抗うつ剤の妊娠・授乳への影響に関する2つの基準をご紹介したいと思います。

FDA

妊娠への影響:FDA(アメリカ食品医薬品局)薬剤胎児危険度基準

A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
B:ヒトでの危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌

授乳への影響:Hale授乳危険度分類L1:最も安全L2:比較的安全L3:おそらく安全・新薬・情報不足L4:おそらく危険L5:危険

抗うつ剤が奇形を引き起こすリスクはそこまで高くはないといわれていますが、以下の抗うつ剤ではリスクが多少なりとも高まることが示唆されています。
パキシル:心房中隔欠損
ルボックス/デプロメール:相互作用で他の薬の濃度をあげる
アモキサン以外の三環系抗うつ薬:四肢奇形・顔面奇形・心血管奇形

念のため、避けたほうが無難でしょう。

抗うつ剤が赤ちゃんに影響するのは、むしろ産まれた後です。赤ちゃんにとっては急にお薬が身体からなくなるので、離脱症状が生じることがあります。ですが、早めに見つけて症状を和らげる治療をおこなっていけば、問題ないことがほとんどです。後遺症が残るたぐいのものではないので、産科の先生にお伝えしておけば、過度に心配しなくても大丈夫です。授乳に関しては、抗うつ剤は基本的に安全性は高いといわれています。とくにSSRIのジェイゾロフトでは、授乳での安全性は高いといわれています。いくつかL3となっているお薬がありますが、明かな有害事象の報告はなされていません。



プライマリーケア医の守備範囲

SSRIが世に出てきた頃は、専門外でも安全に使える抗うつ薬ということで、うつっぽかったら、どんどん気軽に使って良いですよって感じの言われ方をしていたのが、突然、自殺が増えるというようなデータが出てきて、一挙に素人が安易に使ってはいけないというように反対に振り子が振られることが起こりました。(新薬ではよくあることですが・・・)

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うつ病という診断が間違っていなければ、安全な薬で問題ないわけですが、躁鬱病(双極性障害、発症年齢が若い(20〜30歳代が多い。過眠、過食傾向になりやすい)とパーソナリティー障害(攻撃的で、人間関係、社会適応の問題を起こしやすく、リストカット痕あり)アルコール依存症などに抗うつ薬を処方してしまうとより元気にしてしまって、衝動的に自殺するというような結果になってしまって危ないわけです。最近では、遊びにはいけるけど、仕事はできないというような、それって病気?というような新型うつ病と呼ばれる概念まで出て来ています。僕自身、こんな都合のいいうつ病まがいの疾患までハードルと下げる気は全くありません。そういった意味では、プライマリーケア医は、元気のない(眠れない、食べれない)うつを診れば、いいわけです。

よろず診療所としていろいろな疾患をなるべく受け入れて診ているわけですが、やはり、どこまで診るか、どこまで引っ張るかというのは、考えておかなければならないわけです。現時点では、若い患者さん(20〜30代)抗うつ薬を1ヶ月飲んでも効果のない患者さん、イライラが激しいうつ病、自殺の話題がでる患者さん、最近の未熟な自己形成のため、自己中心的、自己愛的な新型うつ病?などは、僕のような内科医では対応は難しいと考え、紹介するようにしています。

 



うつ病と不安障害の合併

うつ病でも、ちょっとおかしいなと違和感を感じることがあります。不安とは、明確な対象をもたない怖れの感情です。人が生きていくための一種の防衛反応であるとも言われています。「うつ病」と同じように、不安が長期間にわたり継続し、生活に支障をきたす場合は、「不安障害」と診断されます。 細かいことはよくわかりませんが、その症状によって「パニック障害」「強迫性障害」「社会不安障害」などに分類されています。診断は、さておき、内科を受診するうつ病の多くは、この不安神経症的なうつ病まがいの疾患群が多いのではないかと思っています。

動悸や胸痛、食欲不振、不眠、しんどいなどの不定愁訴で、いろいろな病院に行って、「異常なし」「気のせい」と言われて、当院に流れ着く患者さんもおられます。検査では、異常なくても患者さん自身は身体を異常を感じているわけですから「症状については、いっしょに考えてみましょう」ってことですよね。漢方薬のところでも書きましたが、いくら医学が進んだといっても生命の不思議さなんて、みんな説明できるわけはないのです。できれば、ストレステストなどで、症状を再現して、上手にセルフコントロールできるようにしてあげればいいのですが、原因は、結構自分でも気づいていないところにあったりもするものです。まずは、食事、運動、睡眠等のライフスタイルを整えることが基本です。

薬物療法では、上手に、抗不安薬、睡眠薬を使って、睡眠の確保することが大切です。ベンゾジアゼピン系の薬は「依存性があるんじゃないか」「認知症になるんでは」などいろいろな声が聞こえてきますが、バルビツール系とは違い、副作用もほとんどなく、安全に処方できる薬です。ベンゾジアゼピン系は、脳内で興奮をしずめるGABAという物質の働きを高める事で、気分をリラックスさせ、不安や緊張感を和らげて、抗不安作用、睡眠作用や筋弛緩作用を発揮します。

ベンゾジアゼピン系のお薬の力価(薬の効き目の強さの目安)と血中半減期(薬の効く時間の長さの目安)を一覧です。僕の印象とはちょっと違う所もあるんですが、まあ、人それぞれですね。いくつかの薬を使い分ければOKです。僕の場合は、超高齢者には、最も弱いものとしては、ここには載ってませんが、グランダキシンを処方しています。普通は、リーゼが最も弱く、セルシン、ワイパックス、メイラックスが中程度、デバス、セパソンが強め、最も強いのは、ソラナックスは、僕らが飲んでも眠たくて、フラフラするかもしれません。一般的には、眠気が続いてしまったり、お薬が効いている時間は注意力・集中力・反射運動能力が下がったりします。お薬が効いているあいだはなるべく安静にしましょう!一方、長時間効果が続いてずっと効果を発揮し続けるのがメイラックスなどのお薬。これらのお薬は、1日1回服用すると1日中効果を出してくれるので、日中・夜間に限らず常に効果を発揮したいときなどに使われますね。

 

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[パニック障害(Panic Disorder :PD)]
パニック障害は、何の前ぶれもなく突然、心臓が激しくドキドキしたり、呼吸が苦しくなったり、めまいや身体が震えるなどの症状と激しい不安感が発作的に起こる病気です。このような発作を“パニック発作”と呼びます。心筋梗塞と間違われることもあります。

[強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder :OCD)]
強迫性障害とは、不快な考えが頭に何度も浮かぶために、その不安を振り払う目的から同じ行動を繰り返す病気です。一度、家を出た後にまた戸締まりの確認に戻る、何回も手を洗うなどです。

[社会不安障害(Social Anxiety Disorder :SAD)]
大勢の人の前で話す、初対面の人と会話をする、電話の対応をする、大切なお客様にお茶を出す、人前で字を書くといった状況で、「緊張したり」「不安を感じたり」することは、多かれ少なかれ誰にでもあることですが、社会不安障害は、このような状況に置かれたときに普通の人よりも「強い不安」を感じ、この様な状況を回避するために、仕事場や学校での社会生活に支障をきたすようになるのです。

ここまで行くと、お手上げです。高森先生、よろしくお願いします。


「こころの悩み相談ください」いうポスターもなにげなく掲示しています。

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「いのちの電話」最近は地域社会でも繋がりが疎遠になってしまって、大阪のおばちゃんのような「おせっかい」を行政が担う時代になっています。電話で30分間、時間稼ぎをすれば、自分はなんの約にもたっていない絶望的な孤独感から、誰かと繋がった感が、自殺を思いとどまらせるのに大事なんですね。