心不全

時々ニュースで「心不全」でお亡くなりになりましたとの報道がありますが、「心不全」は病気の名前ではありません。心不全とは、心臓に何らかの異常があり、心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態をいいます。心臓は頑張って頑張って血液を送り出そうとしますが、最期には心臓はやがて疲れてバテてしまいます。つまり、心不全とは、心臓の血液拍出が不十分であり、全身が必要とするだけの循環量を保てない病態と定義されています。どうでしょうか?ちょっとわかりにくいですかね。疾患名ではなくて心臓がうまく働いていない状態を表しているわけです。呼吸不全(呼吸がうまくできない状態)肝不全(肝臓がうまく働いていない状態)腎不全(腎臓がうまく働いていない状態)も同じです。どんな病気にしろ最期は、心臓が止まって亡くなります。我が国の死亡原因は、第1位はがん(悪性新生物)で、第2位は心疾患ですが、平成6年から7年にかけての死亡統計で心疾患が激減しています。べつに心臓病が急に減ったわけではありません。厚生省が「死因を心不全と書かないように」と通知を出したからです。どんな疾患で死ぬにしろ、日本人の死というのは、心臓死=死としていることもあり、最後は心臓が止まって死ぬわけです。「がんにしろ脳梗塞にしろ、疾患の終末期の状態としての心不全は記入しない」といった注意書きを付けて、安易に心不全とせず、ちゃんと死亡の原因となった直接死因を書けと医師を指導したわけです。心疾患が減少しているのは、新しい死亡診断書(死体検案書)(平成7年1月施行)におけて施行前からの周知の影響によるものと考えられています。実際に監察医制度が整っている東京23区や大阪、神戸市などの地域では、必要とあれば、解剖もするので死因もはっきりします。その結果、心不全と書かれたのは、全死因の7%だったのに対し、制度のないほとんどの地域では、なんと51%が心不全だったとされています。しかし、家族が起きたら死んでいたといった異状死の場合、その人を一度も診たことがない医師が死亡死体検案書を書く時、死因ははっきりしないが、警察も事件性もないとのお墨付きを頂ければ、まあ解剖まではせずとも心不全にしておこういうことになるわけです。実際の臨床現場では、原因となる疾患でよくわからなかったら、なんでもかんでも「心不全」にしている風潮があったんでしょうね。死因は医療・保健政策をたてるうえで、基本的なデータであるので、あいまいにせずきちんと書くことは大事なので、死亡診断書にはちゃんと心臓が止まる原因となった病気を記載する努力を怠ってはいけませんね。ただ、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は記入しないと書かれているだけで、がんや脳梗塞、肺炎など全く異なった臓器の疾患の終末期の状態としてではなく、明らかな心疾患(陳旧性の心筋梗塞、心筋症、僧帽弁逆流など)の終末像としての「心不全」という症候名が使われることは認められています。

心不全を国民によりわかりやすく理解して貰うため、一般向けの定義として「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」と発表されました。

死亡原因

日本は世界でもトップを走る超高齢化社会であり、2025年には65歳以上の人口が30.3%、75歳以上が13.0%に達するとされています。心不全を含む心疾患にかかる患者は増加しつづけ、がんに次いで、死因の第2位を占めています。高齢者の増加に伴い、高齢心不全患者さんが大幅に増加すること=「心不全パンデミック」が予想されています。心不全が爆発的に増えるであろう背景としては、高齢化により新規心不全患者が増えることと同時に、いろいろな治療法が開発され、心不全の治療も進歩し、心不全患者さんが一旦は良くなって退院するので、何回も入退院を繰り返す患者さんが多いことから(がんのようにどこからが終末期なのかがはっきりしない)入院医療が必要な高齢心不全患者さんであふれ、病院が患者さんを受け止めきれなくなる事態が想定されているわけです。そのため、地域社会全体としてチームを組んで、外来、在宅、日常生活において心不全を予防し、再発させない治療、体制が必要です。

パンデミック

実際、国立循環器病研究センターが行っている調査、循環器疾患診療実態調査(JROAD)の結果、急性心筋梗塞の全国の入院患者数は、2012年の約6万9,000人から2016年には7万3,000人と微増(入院中の死亡率は約8%)だが、心不全による入院患者数は、2012年の約21万人から2016年には約26万人と、毎年1万人ずつ増加していることが明らかになっています。その平均年齢が男性75歳、女性81歳と、特に高齢女性の心不全患者が多いことが明らかになりました。

心不全の入院

 

「心不全」はひとつの病気ではなく、心臓のさまざまな病気(心筋梗塞、弁膜症、心筋症など)や高血圧などにより負担がかかった状態がつづき、そのなれの果てなのです。

心不全

心不全には、急性心筋梗塞や過度なストレスにより、急激に心臓の働きが悪くなる「急性心不全」と心不全の状態が慢性的に続く「慢性心不全」があります。急性心不全は命の危機にさらされることもありますし、慢性心不全が急に悪くなり、しばしば入院治療が必要な急性心不全に移行することもありますが、入院のたびに心機能が低下し、慢性心不全として全身状態も低下していくため、高齢者の終末像としてとくに大きな問題となってきています。

症状

心不全の症状には、収縮機能の低下しポンプで血液を全身に送り出すことができなくなって全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから筋力が低下し疲労感、脱力感、不眠、冷感(頬、耳たぶ、手足の指先が冷たく)などが起こります。また、尿量が減ったり、心不全の初期には夜間の頻尿が認められることがあります。また、拡張機能が低下し全身の血液が心臓に戻れなくなって血液がうっ滞することによって息切れ、呼吸困難、むくみ(浮腫)などが起こります。最初のうちは、階段や坂道などを登ったときに息切れする程度ですが、進行すると、少し歩いたり身体を動かしたりするだけでも息苦しくなります。そして、もっと悪化すると、安静にしていても症状が出るようになり、夜中、寝ているときでも咳が出たり、息苦しさで寝られなくなることもあります。そうした場合、イスに腰掛けるなどの姿勢をとると呼吸が楽になります。これを起坐呼吸と呼んでいます。むくみ(浮腫)は下肢によくみられ、むこうずねの下あたりを強く抑えると指のあとが残ります。また、頸静脈の怒張を認めます。むくみがあるとその分体重が増加しますので、短期間で体重が増加する場合は要注意です。腸管などがむくむと食欲不振の原因になります。

心不全の症状

 

急性心不全の分類

心不全をカテーテルを用いた血行動態からみる方法、身体所見から得られるリスク層別化の方法、急性期の初期対応のために血圧を軸とした方法の3つの分類があります。

(1)Forrester分類(フォレスター分類)は右心カテーテル検査で得られる血行動態指標(肺毛細血管楔入圧、心係数)を用いたもので、急性心筋梗塞に伴う急性心不全の予後分類であり、梗塞による急激な左心機能の低下に基づく心不全という前提がある(すなわち右 心機能は保たれていること、循環血液量は一定であることが前提でなので、慢性心不全の急性増悪の評価はできません)入院に侵襲的な検査による評価なので詳細は清書を参照して下さい。

 

フォレスター分類

(2)Nohria-Stevenson分類(ノリア・スティーブンソン分類)は、身体所見から得られる低灌流所見およびうっ血所見から心不全患者のリスク層別化をする分類です。簡易で、非観血的に評価できます。うっ血所見は、起座呼吸、頸静脈圧の上昇、浮腫、腹水、肝頸静脈逆流のありなしでwetかdryに分け、低灌流所見は、小さい脈圧((収縮期血圧-拡張期血圧)/収縮期血圧<25%)四肢冷感、傾眠、低Na血症、腎機能悪化のありなしで、warmかcoldに分けられる。Warm & dryのProfile Aは、Forrester分類のⅠ型に相当する症例が多く、重症度は低い。心拍出量が保たれているB型では左心機能不全が主体。C型では心拍出量が低下しており右心不全症状が全面に現れる。短期間での心臓移植を含む死亡例はProfile CとBに多い。Cold & dryのProfile Lには右心不全症例も含まれます。この分類は、臨床所見がきちんととれるかなり高いスキルが必要です。

ノリア分類

A:dryーwarm うっ血や低灌流所見なし
B:wet-warm うっ血所見はあるが、低灌流所見なし
C:wet-cold うっ血および低灌流所見を認める
D:dry-cold 低灌流所見を認めるが、うっ血所見なし

 

 

(3)クリニカルシナリオ(clinical scenario; CS)分類は循環器専門医以外の医師が救急外来での初期対応導入を迅速に行えるように作られた分類です。急性心不全を発症した時に収縮機血圧が高い人は予後が良いという知見から、初診時の収縮機血圧を指標としており、非侵襲的かつ短時間で測定が可能であるため、利便性が非常に高い。収縮期血圧を参考にその病態を把握して速やかに治療を開始するアプローチ法として臨床現場で広まっているが、注意点として、血圧値のみで治療方針を決定しないこと。CS4は心筋梗塞など急性冠症候群がある場合なので、なるべく早くカテーテル治療をしなければなりません。CS5は右心不全などが含まれます。

CS分類

 

NPPV(非侵襲的陽圧換気)の主な積極的適応は、うっ血性心不全やCOPD等によるⅡ型呼吸不全です。うっ血性心不全は酸素全開投与でも呼吸困難感が改善しない場合、Ⅱ型呼吸不全であれば、ベンチュリーマスクでも低酸素や二酸化炭素貯留が改善しない場合に使用します。心不全の場合は、肺胞も膨らむし、静脈還流の前負荷が軽減するため、非常に素早く色んな事が改善します。しかし、非協力的な場合や肺炎の合併、血管内脱水があるような場合など実際の現場では適応が難しい症例もあるのが現状です。

NPPV
 
 

検査

(1)胸部レントゲン

心不全
 

①cephalization(角出し像)
②perivascular cuffing(肺血管周囲の肥厚)
③Kerley’s B
④Kerley’s A
⑤Kerley’s C
⑥peribronchial cuffing(気管周囲の浮腫)
⑦vanishing tumor(一過性腫瘤状陰影)
⑧butterflay shadow
⑨⑩costophrenic angle(肋骨横隔膜角)の 鈍化
⑪上大静脈の突出

 

(2)BNP:brain natriuretic peptide(脳性ナトリウム利尿ペプチド)

ナトリウム利尿ペプチドの一つです。最初ブタの脳から精製されたことから「脳性」という名前が付きましたが、ヒトでは心臓の心室から分泌される心血管ホルモンとして機能しています。BNPもANPも日本人が発見しました。BNPとは心臓(おもに心室)から分泌されるホルモンで、利尿作用、血管拡張作用、交感神経抑制、心肥大抑制などの作用があり、心筋を保護するように働きます。

画像の説明

 

今まで、心不全(心臓が元気かどうか)を簡便に調べる検査がありませんでした。BNPは心臓に負荷が増えたり心筋の肥大がおこると増加するので、採血で血液中の濃度を調べることで、心臓に負担がかかっているかどうかをスクリーニングできる極めて画期的な血液検査です。BNPは主に心筋細胞にて産生、分泌されます。前駆体ホルモンであるproBNPが蛋白分解酵素により生理活性を有するBNPと生理活性のないNTproBNPに分解され、血中に放出されます。元来は生理活性を有するBNPの測定系が開発され臨床応用されましたが、近年では、特殊なスピッツ(血中における安定性はBNPより良好で、検体として血清を使用できます)の必要がない非生理活性型のNTproBNPの測定系も普及してきました。

 
 
 BNP
 

BNPは血管拡張作用やNa利尿などの生理活性を有し半減期が20分と短くすぐに代謝されるため常に心臓における産生にフィードバックをかけて、刻々と変動する心臓の状態をより反映している可能性はあります。一方、NTproBNPは半減期が120分と長く代謝は腎臓のみと考えられており、半減期が長い分より血中濃度が高くなります。両者においてその優越性に関する結論はでていません。

心不全の診断におけるBNP、NTproBNP測定の意義はほぼ確定しています。BNPは自覚症状が出る前から血中濃度が上昇することが証明されていますので、心機能低下の早期発見にも有用であると考えられます。BNP値が18.4〜40pg/mlの場合は心不全の危険因子を有している症例でも直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断されます。ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。BNPが100以下では心不全の可能性が低くなり、100以上では高くなります。病歴、既往歴、身体所見から、呼吸困難の原因は喘息と思っていたのに、BNPが400以上だった場合は、心臓喘息かもしれません。BNPが異常高値を認めた場合、何らかの原因(慢性心不全、急性心不全、心筋症、心肥大)で心室が楽に動けない状態になった時に、心筋が他の臓器などに苦労を知らせるホルモンで、いわば心臓の悲鳴の程度を表すものです。呼吸困難を主訴に来院した検討では、BNPのカットオフ値を100pg/ml(NTproBNP400pg/ml)とすると心不全診断の感度は90%、特異度76%と報告されています。BNP100pg/ml(NTproBNP>400pg/ml)であれば、治療対症となる心不全の可能性があるので精査あるいは専門医療機関へ紹介を検討する必要があります。

 
BNP
 
 
BNP値は年齢とともに高値になり、性別・体型でも変動します。また、腎機能障害や心房細動などでも上昇します。目安としては(1) 75歳以上なら184以下(2) 心房細動があれば150以下(3)腎機能障害(血清クレアチニン値2mg/dl以上)があれば449以下が急性心不全否定の基準として提唱されています。これ以外にも、発症1時間以内の急性心不全や、僧帽弁狭窄症や心タンポナーデによる心不全の場合、BNPが上昇しないことがあり、反対に、急性肺血栓塞栓症、敗血症性ショック、肝硬変など心不全以外の原因でも上昇することがあります。
 
 BNP

BNPは多くの臨床研究で心不全の予後予測にも有用とされています。中等度から重症の心不全患者を対象としたバルサルタンの有用性を検討したVal-HeFT試験のサブ解析では、BNP値を4群に分け、BNP値が高いほど死亡率が高いことが報告されています。慢性心不全の診断が確定している患者においてBNPを経時的に測定しBNPを指標にして心不全治療薬を増量したり、悪化をより早期にとらえやすいなどの有用性は報告されていますが、BNP値をある数値以下に下げたほうがいいという目標値などはありません。実際の臨床では、過去のBNP値と比較して、身体所見、その他の検査を組み合わせることでその患者さんの最適値を見つけて、維持するよう包括的な治療を行うことが大切と思われます。

Val-HeFT

実際の慢性心不全の臨床では、NT-proBNP測定値(pg/mL)が1000を越える場合もたくさんあります。NYHA分類ではNYHAⅠ度がNT-proBNP500程度、Ⅱ度が3000前後、Ⅲ度が5000前後、Ⅳ度8000以上、とおおまかに予測されます。以下、簡易的な目安です。

55以下:心血管系に問題なし
55-125:高血圧などを含む生活習慣病の疑い(早期の予防・改善を)
125-500:生活習慣病and/or心不全を含む心臓病の疑い(早期予防改善に加え、経過観察が必要)
500-1000:心不全を含む心臓病の疑い(心機能のチェックを行い、適切な治療が必要)
1000-4000:心不全を含む心臓病の疑い(専門医への紹介が必要)
4000-8000:心不全を含む心臓病(早期専門医紹介、精査治療が必要)
8000以上:心不全を含む重篤な心臓病(緊急の入院、加療が必要)

(3)心エコー

 40-100pg/mlの場合には、軽度の心不全の可能性があります。危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査の実施をお勧めします。心不全は、軽度な場合は、心電図胸部レントゲンなどではファジーにしかわかりません。心臓がちゃんと動いているかは、循環器の専門医療機関を受診し、心エコー検査で、心臓の収縮力を表す、EF(駆出率)という指標が汎用されていました。絶えず働いている心臓の動きを実際にリアルタイムでみることができる検査です。心臓が弱ってくると、心臓のサイズが大きくなることが多く、心臓の形もしだいにボールのように丸くなってくることも知られています。また、心臓の壁の厚さを調べることで、心肥大があるかどうかもわかります。心臓の動き方が調べられるのも大切な点で、心筋梗塞の場合は梗塞が起こり、収縮運動をしない心筋の場所や範囲がわかりますし、さらに心臓全体の機能の良しあしも左室駆出率という数字で客観的に評価することができます。

 

「急性及び慢性心不全の診断と治療ガイドライン2016」の改訂版では、従来から大きく二分されていた左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(heart failure with reduced EF:HFrEFヘフレフ)とLVEFが保持された心不全(heart failure with preserved EF:HFpEFヘフペフ)との間に、LVEFが「mid-range」の心不全(heart failure with mid-range EF:HFmrEFミッドレンジ)が新たに加わりました。LVEF<40%がHFrEF、LVEF40-49%がHFmrEF、LVEF≧ 50%がHFpEFということになるが、BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)>35pg/mLおよび/またはNT-proBNP>125pg/mLがHFrEF以外の診断基準に明記されることにもなりました。

 

 

へふぺふ HFpEF(heart failure with preserved ejection function)「収縮機能が保たれた心不全」

心臓には、血液を循環させるための二つの機能があります。全身へ血液を送り出すための「収縮機能」と、全身から戻ってきた血液を取り込むための「拡張機能」です。以前は、左心室の収縮力が低下し(左室駆出率が40%未満)左心室が拡大した「収縮機能不全」が心不全の主な原因と考えられていました。しかし、最近の研究から、高齢者の心不全の半数は、収縮力が保たれているにもかかわらず、左心室が硬くて広がりにくいために、心不全症状を呈する「拡張機能不全」というタイプの心不全であることが分かってきました。簡単にいえば、心臓へ血液が戻る力が弱くなっているため、うっ血が起こり、むくみなどの症状が起こりやすいといった特徴があります。実際には、拡張能を正確に評価することが難しいため、「収縮機能が保たれた心不全」(heart failure with preserved ejection function: HFpEF)と呼ばれています。

心不全

 

拡張不全は、収縮機能は保たれているため症状が出にくいのが特徴です。収縮不全の場合、胸部X線で心陰影が大きくなっているなどの所見が認められますが、拡張不全では、収縮機能が正常に保たれているためこうした所見がはっきりしないことも多いのです。確定診断には、心エコー検査のほか、血液検査のBNPが決め手になります。(収縮機能の低下した心不全(HFrEF)の方がBNPは高値)HFpEFの特徴は、高齢者、女性に多く、高血圧症、糖尿病、肥満、心房細動など心臓の病気などの基礎疾患を持っている人、とくに身体活動度の低い人に多いため、症状に気づきにくく、放置してしまうケースも少なくありません。(虚血性心疾患は、収縮機能の低下した心不全(HFrEF)の方が多い)また、収縮機能の保たれているにもかかわらず、収縮機能が保持された心不全(HFpEF)では、経年的にも予後の改善はされていないことが疫学調査などから明らかになっています。

HEpEF

治療についても収縮機能の保たれた心不全(HFpEF)は、収縮機能の低下した心不全(HFrEF)には有効とされる治療薬(ACEやβブロッカーなど)が無効なため、予後を改善する治療法はなく、原疾患の治療、併存疾患の治療に加え、利尿剤等でうっ血を軽減するなど症状の改善を目的とした対症療法しかできていないため、予後改善より、QOL改善を目指す治療を行うことが現状です。

心不全治療

 

慢性心不全

さて、急性心不全の病態は入院後せいぜい1〜2週間程度でほとんどが良くなっていきます。急性心不全を脱して良くなった患者さんは、すべて慢性心不全患者ということになります。

慢性心不全の重症度分類はニューヨーク心臓病協会(NYHA:New York Heart Association)のものがよく使われています。心機能の程度を問診所見(自覚症状)つまり患者さん自身がどう感じているかによってから分類します。以下のように心不全における身体機能の重症度を4段階に分類しています。

NYHA

今でもNYHA心機能分類は、その簡便性、日常生活でも運動耐容能を示す指標として重要性は変わりありませんが、最近では、心不全の病期の進行については 2001年にACC/AHA(American Heart Association / American College of Cardiology)の心不全に関するガイドラインから登場した心不全ステージ分類が用いられることが多くなりました。このステー ジ分類は適切な治療介入を行うことを目的にされており、無症候であっても早期に治療介入することが推奨されています。

心不全ステージ分類

縦軸に「心不全とそのリスク」「心不全の進展イベント」「心不全ステージ分類」「身体機能」「治療目標」の各項目が並び、それぞれがどのように進展していくかがひと目で分かるように示されています。心不全がステージAからB、Cと経てDへと不可逆的に身体機能が低下する様子が視覚的に理解できるよう示されています。心不全未発症段階のステージA・Bをあえて入れることで、心不全は進行性であることと治療に関しても予防的なアプローチの重要性が示されており、ステージAにおける高血圧や糖尿病などのリスクファクターの管理、ステージBにおける器質的心疾患の進展予防による心不全の発症予防などが強調されています。足に浮腫があって胸部Xpでうっ血が認められてゼイゼイ言っているなんて患者さんは誰が診てもおかしいわけですが、ほとんどの患者さんはNYHA分類Ⅱ度ぐらいが多くて全く症状のないNYHA分類Ⅰ度に行ったり来たりするわけですからこの軽い動作で息切れが果たして心不全?かどうか心疾患があることが条件と言われても高血圧があったとしてちょっと心肥大があったら?としてもこれが心不全によるものかを診断すること自体が難しいわけです。つまり、これらも含めてさっさと治療を介入しましょうというのが心不全ステージ分類です。各ステージの定義については、リスク因子をもつが器質的な心疾患がなく、心不全症候のない患者をステージA、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者をステージB、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者を既往も含めてステージCとなる。さらにおおよそ年間2回以上の心不全入院を繰り返し、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらずNYHA分類III度より改善しない患者はステージDと定義される。これらの患者は補助人工心臓や心臓移植などを含む特別の治療もしくは終末期ケアが適応になるとしています。

またNYHA心機能分類は日常生活動作における自覚症状の有無や程度で分類するため、治療により自覚症状が軽快することで段階が戻ることがよくありますが、AHA/ACC心不全ステージ分類は基本的にステージの進行は不可逆的であるとされており、患者さんは治療により症状が軽快しても病期は確実に進行してステージが決してもとに戻ることはありません。ステージCになると治療により症状が軽くなり、無症状になる場合もあるものの、ステージBには戻らないとしています。心不全ステージ分類と NYHA分類の対比を示します。

 

対比

 

 

治療

心不全の治療に説明によく用いられる「坂道を上がる荷馬車」の例えから説明すると強心剤は馬にむちを入れる治療で、急性心不全にへばった心臓を立ち上がらせるために使用されますが、長期的には良くないことがわかっています。血管拡張薬は荷物を減らす治療で、β遮断薬はスピードを緩めてゆっくり休みながら上る治療で、長期予後をよくすることが証明されています。新しい馬に代えるのが心臓移植、トラクターを購入するのは人工心臓というわけです。原因を突き止めて治療するというのは、もっとも理にかなった治療で、例えば、虚血が原因ならば、細くなった血管を広げて十分な血流を確保してあげたり、弁が壊れて狭くなったり、逆流がひどければ新しい弁に交換する手術をしたり、心房細動や発作性上室性頻拍、心室頻拍など不整脈が原因の場合は、アブレーション治療などで不整脈が起こらなくしてあげるといいわけです。

心不全と荷馬車

 

慢性心不全(収縮不全)の治療には、ACE(ARB)阻害薬(予後の改善)β遮断薬(予後の改善)利尿薬(QOLの改善)の3剤が基本となります。ACE(ARB)阻害薬、β遮断薬は、心不全の症状のないときから開始します。利尿剤は、むくみ(浮腫)など症状のある患者さんに、QOLの改善のため追加処方します。

心不全の治療

 

心不全の治療

 

ACE阻害薬、ARB

1987 年のCONSENSUS試験はACE阻害薬であるエナラプリルの重症心不全に対する予後改善効果を示しパラダイムシフトをもたらした臨床試験です。この試験にはNYHA IV度に相当する患者がエントリーされておりプラセボ群の1年死亡率が52%という非常に重症な心不全においてエナラプリルが極めて有効性が高いことが示されました。また1991年のSOLVD試験においてより軽症のNYHA II~III度の患者群でも引き続き、有効性が示されました。心不全におけるレニンアンジオテンシン(RA)系の活性化が悪循環をもたらしそれを断ち切ることがACE阻害薬の予後改善効果の根幹であるとされています。ACE阻害薬の有効性はエナラプリルとリシノプリル以外の薬剤に明確なデー タはないがなんとなくクラスエフェクトとされているのが現状であるが、我が国における慢性心不全に対する保険適応はこの2剤のみです。

ACE

ARBは、ACEに依存しないAIIの産生経路があること、ACE阻害薬の投与によりブラジキニンの産生が増加するため空咳が特に我が国の女性に多いことなどはACE阻害薬に不利な点と考えられており、ARBはこれらの点を一挙に解決できる可能性があると考えられていたが、2000年前後に発表された対ACE阻害薬の試験であるElite II、RESOLVD、OPTIMAALなどではARBの有効性はすべて同等以下であり、残念なことにACE阻害薬を凌駕する成績は出せませんでした。でもACE阻害薬に忍容性の低い患者における切り替えが適切とされており、我が国における慢性心不全に対する保険適応はカンデサルタンのみとなっています。

β遮断薬

心不全治療に対し保険適応下で使用できるβ遮断薬は現在2種類あります。カルベジロールとビソプロロールです。大規模試験として検証されたのは1996 年US Carvedilol 試験が最初です。NYHA II~III度の収 縮不全患者に対してカルベジロールは非常に高い有効性を示したのみならず、そのサブ解析であるMOCHA試験において用量依存性に特に非虚血性心不全においてEFの改善が認められることを示しました。予後を改善させることが証明されて いるACE阻害薬やアルドステロン拮抗薬による EFの改善効果というものは認められていません。1999 年にはビソプロロールとメトプロロールもCIBIS IIと MERIT-HF試験においてNYHA II~III度の収縮 不全患者群に対して有効性が証明されています。CIBIS-IIの対象はNYHAIII-IV, LVEF≦35%の慢性心不全患者2647例。ビソプロロールは1.25mg/日より開始され忍容性に問題なければ2.5mg, 3.75mg, 5mg, 10mg/日へ増量されました。ビソプロロール群、プラセボ群それぞれ推定年間死亡率は8.8%、13.2%であり、プラセボ群と比較したビソプロロール群における総死亡リスク低下率は34%でした。カルベジロールはNYHA I度やIV度の患者に対しても CAPRICORN試験やCOPERNICUS試験で有効性を確立しており、NYHA I度から適応とされています。MERIT-HFのコハク酸メトプロロールは我が国 では販売されておらず,酒石酸メトプロロールである。この酒石酸メトプロロールを使用してカルベジロールとの比較を行ったCOMET試験ではカルベジロールが有意に予後を改善す るという結果であったので、少なくとも酒石酸メトプロロールを積極的に使用する必要はないと思われれます。用量については、少なくとも忍容性がある限りは増量すべきであると思われます。

β遮断薬の分類について、内因性交感神経刺激(intrinsic sympathetic activity: ISA)とは交感神経興奮時にはβ遮断作用を呈しますが、非興奮時にはβ刺激作用をもつことを意味し徐脈を起こしにくい特徴があります。膜安定化作用(membrane stabilizing activity: MSA)は膜を安定化し、高用量で活動電位の立ち上がりを抑制することであります。実際の臨床ではその重要性は希少です。患者さんごとの重症度にもよりますが、β1選択性が高いII類薬は気管支喘息、冠攣縮性狭心症の患者でも使用可能です(慎重投与)。

β者弾薬

 抗アルドステロン薬

心不全では心拍出量と血圧低下に対する生体の代償機序が働いて、腎血流低下によりレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)が、動脈受容体を介して交感神経系活性が著しく亢進します。RAASや交感神経系に代表される神経内分泌系因子が過剰に、また長期に活性化されると、心血管系では肥大や線維化などのリモデリングが助長されて、動脈硬化や組織線維化を急速に進展させ各種臓器障害を起こし、病態悪化の連鎖が始まることになります。また、RAASには血中を循環する循環系と組織内局所での作用を発現する組織系のものが考えられており、心肥大や血管肥厚、動脈硬化といった局所の構造的変化(リモデリング)に関与する慢性の調節系であると考えられています。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、アンジオテンシンIからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害することにより、また、アンジオテンシンⅡタイプ1受容体阻害薬(ARB)はアンジオテンシンⅡタイプ1受容体を拮抗してRASSを抑制しますが、ACE阻害薬ではRAASは完全には抑制しきれず、キマーゼを介しアンジオテンシンⅡが産生され、アルドステロンブレークスルーが生じると考えられています。RAAS抑制薬の中で、RASS下流のアルドステロン受容体であるMRを阻害する抗アルドステロン薬には、非選択的なスピロノラクトンと選択的なエプレレノンがあります。

1999年、RALES試験(Randomized Aldactone Evaluation Study)は、NYHAⅢ度以上の重症心不全で標準治療を受けている患者さんに対するスピロノラクトン追加群の効果を検討した無作為割付け、プラセボ対照、二重盲検試験です。左室駆出率35%以下でACE阻害薬、ループ利尿薬、ジゴキシンによる治療を受けている1663症例の患者に対して、スピロノラクトン25mg投与群(822例)においてプラセボ群(841例)に比べて、平均追跡期間24か月の中間解析の時点で、スピロノラクトンの有効性が明らかになり試験は中止となりました。突然死も含めた死亡率は30%減少し、入院の頻度も35%減少しました。同群における死亡リスクの30%低下は、心不全進行による死亡と心臓突然死の低下によるものでした。しかしながら、少なからず、スピロノラクトンには高カリウム血症と女性化乳房の副作用(女性にはスピロノラクトンでまったく支障ない)があり、ACE阻害薬との積極的併用により血清カリウムの上昇に伴う死亡や心不全入院が増加するとの報告もあり常に注意喚起されるところです。また、RALES試験はNYHA分類のClassⅢまたはⅣの心不全患者を対象としており、軽症心不全患者を対象とした臨床試験ではないことから、スピロノラクトンの心不全早期からの使用には注意が必要です。

スピロノラクトンには女性化乳房という副作用が用量依存性に生じる可能性がありました。これはスピロノラクトンのエストロゲン様作用という抗アルドステロン作用以外の部分に由来すると考えられており、選択的抗アルドステロン薬ならば女性化乳房は生じにくいと考えられていました。そのような目的で開発されたエプレレノンは心筋梗塞後の心不全患者への有効性を2003 年にEPHESUS試験で示されました。さらに2009 年にはEMPHASIS-HF試験において原疾患を問わずNYHA II度の収縮不全の患者に対してエプレレノンはほとんどサブグループを問わずすべてのエンドポイントで有効性を証明しました。

抗アルドステロン薬

 

デバイス治療

デバイス治療には大きく分けて、突然死を予防するための植込み型除細動器(ICD:implantable cardioverter defibrillator)と心不全に対して両心室ぺーシングを行う心室再同期療法(CRT:Cardiac Resynchronization Therapy)の二つの治療法があります。つまり、心不全で亡くなる場合、突然死で亡くなるかもしくは心不全自体の悪化によって亡くなるかのどちらかというわけです。一般的には、心不全が進むと突然死も心不全の悪化でなくなる人も増えるのは当然ですが、心不全の軽い段階では、心不全死より突然死(不整脈死)の割合が多いと考えられます。では、具体的にどういった患者さんにそれぞれのデバイス治療を行うと効果があるのかその適応についてエビデンス的にはどうなっているのでしょうか。

植込み型除細動器(ICD)

まず、突然死を予防するための植込み型除細動器を考える場合、一次予防と二次予防があります。つまり、VT、Vfから蘇生されたような人に対する植え込み(二次予防)と全くVT、Vfを起こした既往がない人の突然死を予防する(一次予防)は分けて考えなければなりません。最も危険性が高いのは、やはり心肺蘇生例です。VT、Vfから蘇生された人を集めてきて、ICDを入れた人とアミオダロンを投与したした人を比べてみる臨床試験(CASH、AVID、CIDS)が行われました。これらのメタ解析で全死亡と不整脈死でICD群で有意に低値でした。(3年より短い追跡期間では生存期間の延長効果は明らかではない)アミオダロンと比較してICDによる死亡率の抑制率は絶対値として3.5%/年であり29例にICDを植え込むと1年間に1例の死亡を抑制できることになります。また左室機能について層別解析を行うと駆出分画が35%以下の例でICDの効果がアミオダロンに勝り心機能が比較的保たれている例(駆出分画>35%)ではICDの有効性は認められませんでした。VT、Vfを起こす原因は症例によって異なります。虚血性心疾患、電解質異常、心不全の悪化、抗不整脈薬などのバックグラウンドがありますが、いづれの場合も突然死は同様に起こっており、一過性の原因でもそれが確実に除去できるかどうかを個々の症例で検討してICDの適応を考えなければなりません。(例えば、心筋梗塞直後のVT、Vfなどは日本の場合ほとんどPCIによるcomplete revascularizationが行われていれば経過観察でもいいのではないかと思われますし、WPW症候群や特発性心室頻拍などによるVT、Vfはアブレーションが選択されるべきでしょう。また余命短いがん患者や認知症患者は適応とはなりません。ちょっとこくですが、コントロール不可能な頻回に繰り返すVT、VfやNYHA分類Ⅳ度の補助心臓や人工心臓の適応にならない最重症患者もICDの適応から除外されています)

ICD アミオダロン

ICD アミオダロン

一次予防はどうか、これまでVT、Vfを起こした既往がない人(一次予防)のICD植え込みを考える場合、一次予防の有用性を示したエビデンスとしては、MADIT試験、MADITII試験、SCD-HeFT試験があります。日本のガイドラインでは、冠動脈疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全で、十分な薬物治療を行ってもNYHAⅡ度Ⅲ度の心不全症状を有しかつ左室駆出率(EF)35%以下で非持続性心室頻拍を有する症例、NYHAⅠ度で冠動脈疾患または拡張型心筋症に基づく左室駆出率(EF)35%以下と非持続性心室頻拍を有し、電気生理学的検査によって持続性心室頻拍、心室細動が誘発される症例となっています。(欧米では拡張型心筋症に対して電気生理学的検査でVT、Vfを誘発することと生命予後の関係は否定されています)

ICD 一次予防

心室再同期療法(CRT)

心不全では、その進行に伴い心電図上のQRS幅は広がり、心室内伝導障害と非協調的心室収縮が生じます。この幅広いQRSの症例は非常に予後が悪いことが以前からわかっていました。非協調的心室収縮を改善する目的で右心房と右心室および冠静脈洞の枝に留置されたリードからのペーシングを用いて心室再同期療法が行われました。CRTの適応となる患者さんの多くは重度の心不全(NYHAクラスⅢ以上)を有しており、そのまま心臓突然死のハイリスク群と捉えられ、極論を言えばポンプ機能を助ける心室再同期療法(CRT)の適応となる患者さん全例に、致死性不整脈による突然死を予防する植え込み型除細動器(ICD)の機能を併せ持つCRT-D療法がおこなわれてもいいかもしれません。(医療財源を考慮しなければ)

心室再同期療法の有用性を示したエビデンスとしては、MIRACLE試験、CARE-HF試験、COMPANION試験があります。MIRACLE試験では、心機能の改善、入院などのイベントの抑制などは証明されていますが、全死亡は有意差が認められませんでした。CARE-HF試験では、CRTが心不全患者の生命予後を改善させることを明らかにしました。COMPANION試験では、CRT療法よりCRT-D療法(ICD機能をプラス)の方が少しだけ生命予後をよくしました。日本のガイドラインでCRTの適応は、ACE阻害薬やβ遮断薬を含む心不全治療が十分に行われたNYHAクラスⅢまたは通院可能な程度のⅣの症候性心不全を有し、左室駆出率35%以下で、QRS幅130msec以上の症例です。しかし、実際は、CRTは約70%の症例にしか効果的でないことがわかっています。その原因としてはdyssynchronyの評価の問題、心筋障害の程度、心不全の重症度、突然死などが挙げられます。CRT-D療法は、心不全死と心臓突然死を抑制しより一層生命予後の改善に貢献することが期待されています。最近の大規模臨床試験はより軽症な心不全患者にもCRT-D療法が有効であることを証明しており、同治療法の適応拡大による最大の問題は不適切あるいは不必要なショックの送出で、今後はショックを可能な限り抑制するアルゴリズム設定の工夫が求められています。

CARE-HF

COMPANION

 

人工心臓

 

補助人工心臓 (VAD:Ventricular Assist device)は、様々な原因により急性あるいは慢性の経過から重度の心不全状態(急性心原性ショックを含む)に陥ってしまった心臓の代わりとして、血液循環を補助するポンプ機能を補う医療機器です。この装置は通常手術により直接心臓に取り付けられますが、術後に状態が回復すると装着している患者さんもある程度自由に動き回ることができます。補助人工心臓には血液ポンプが体外に位置する体外設置型のタイプと血液ポンプが体内に埋め込まれる植込型の2種類が存在します。それぞれの機種は患者様の状態や治療の目的によって使い分けられます。補助人工心臓を装着することで、薬物やペースメーカー治療といった従来行われる治療では治療困難な心不全の患者さんの血液循環を大幅に改善させることができます。時に補助人工心臓を装着することで弱った心臓を休ませることができ、その回復を図ることが可能です。回復が望めない場合には、心臓移植までのつなぎとして利用することもできます。

 

 

心移植

 
心不全が悪化してくると、心移植しか治療法がなく、ドナーが見つかるまでは人工心臓を使って延命していたが、その期間は欧米では平均半年、日本では2.5~3年かかった。人工心臓の問題点はいくつかあり、そのもっとも大きな問題点は血栓ができることであり、心臓移植を行える状態になった人の1/3に脳梗塞が発症していた。近年人工心臓が改良され、拍動流から定常流にポンプの方式が変更されたことに伴い小型化でき、血栓形成の危険度も減少してきた。その結果人工心臓を入れている状態の予後が改善し、5年生存率が80%にまでなってきて、心臓移植の治療効果とそん色がない状況にまでなってきた。その結果、心臓移植を行う必要性が無くなり、人工心臓挿入自体が最終治療法の一つとなってきた。(現時点での人工心臓の問題点は、少なくなったとはいえ、血栓形成の危険があり、抗凝固剤の服用が必要であり、感染の危険性もゼロではないといった問題点がある。)その結果移植の適応として欧米では65歳未満となっている。

 

心臓リハビリテーション

2007年、約2,300人の慢性心不全患者を対象として実施された大規模臨床試験HF-ACTION において運動療法群では通常治療群に比べて,あらゆる死亡または入院が主要背景因子の補正後に有意に13%低下することが示されました。

HF-Action

米国、カナダ、フランスの82の多施設から合計2331人の患者が登録されました。 各無作為化群における患者のベースライン特性を示す。 全患者の年齢の中央値は59歳でした。 28%が女性であり、40%が人種的または少数民族であった。 左室駆出率の中央値は25%であり、患者の51%が虚血性の病因を伴う心不全を有していた。 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはβ遮断薬に対する不耐性または禁忌のない患者のうち、95%がβ遮断薬およびACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)のいずれかを服用していた。 患者の45%が、登録時に植え込み型植込み型除細動器(ICD)または両心室ペースメーカーを植えていました。

特徴 患者数(%)
通常のケア 
(n = 1172)
運動トレーニング 
(n = 1159)
年齢、中央値(IQR)、y 59.3(51.1〜68.2) 59.2(51.2〜67.8)
女性のセックス 314(26.8) 347(29.9)
ヒスパニックまたはラテン系の民族 48人(4.1人) 40(3.5)
レース    
黒人またはアフリカ系アメリカ人 372(31.7) 377(32.5)
728(62.1) 698(60.2)
その他の 56(4.8) 65(5.6)
NYHAクラス    
II 754(64.3) 723(62.4)
III 409(34.9) 422(36.4)
IV 9(0.8) 14人(1.2人)
心不全の虚血性病因 599(51.1) 598(51.6)
左室駆出率、中央値(IQR)、% 24.9(20.0 – 30.2) 24.6(20.0 – 30.0)
糖尿病 370(31.6) 378(32.6)
以前の心筋梗塞 499(42.6) 480(41.4)
高血圧 676(57.7) 712(61.4)
心房細動または心房粗動 241(20.6) 247(21.3)
Beck Depression Inventory IIスコア、中央値(IQR) 8(4〜15) 8(5〜15)
収縮期血圧、中央値(IQR)、mm Hg 111(100〜126) 112(100 – 126)
拡張期血圧、中央値(IQR)、mm Hg 70(60〜80) 70(61-78)
ナトリウム、中央値(IQR)、mEq / L b 139(137-141) 139(137-141)
血中尿素態窒素、中央値(IQR)、mg / dL b 21(15〜28) 20(15〜28)
血清クレアチニン、中央値(IQR)、mg / dL b 1.2(1.0〜1.5) 1.2(1.0〜1.5)
医薬品や機器のベースライン使用    
ACE阻害剤またはARB 1094(93.3) 1105(95.3)
β遮断薬 1112(94.9) 1091(94.1)
アルドステロン受容体拮抗薬 528(45.1) 523(45.1)
ループ利尿薬 921(78.6) 895(77.2)
ジゴキシン 547(46.7) 499(43.1)
植え込み型除細動器 448(38.2) 490(42.3)
両心室ペースメーカー 203(17.3) 216(18.6)
機能対策    
徒歩6分、中央値(IQR)、メートル 373.2(300.0〜 
432.5)
365.8(296.3〜436.2)
心肺運動時間、中央値(IQR)、分 9.7(7.0〜12.1) 9.5(6.9〜12.0)
ピーク酸素消費量、中央値(IQR)、mL / kg /分 14.5(11.6〜17.8) 14.4(11.3 – 17.6)

 

心臓リハビリによる長期予後改善効果は,運動や食事療法による冠危険因子の改善から予測される程度よりはるかに大きいことからむしろ運動療法による「血管内皮機能改善効果」,「抗炎症・抗酸化ストレス効果」,「自律神経機能改善効果」などの生物学的効果によるところが大きいと考えられていることです。

在宅運動の目標トレーニングレジメンは、心拍数予備率の60%〜70%の心拍数で40分間、週5回でした。個人差はありますが、従来行っている運動療法よりはちょっときつめですね。いつもは、ちょっと早足で30分以上、週3回以上って言っているのもそうそう間違いではなさそうです。やらないよりやった方がいいですよね。

運動療法

実際にLTを知るためには、上述したように運動中の血中乳酸濃度を測る必要がありますが、それには専門的な測定機器と熟練した測定者が必要となるのが難点です。そこで、一般的には、年齢から推定される最高心拍数(=予測最高心拍数:「220ー年齢」で計算します)と安静時心拍数の差(心拍予備量=HRRHeart Rate Reserve)を求め、その5060%を安静時心拍数に加算したものを目標心拍数(THRTarget  Heart Rate)として設定する方法が広く用いられています。たとえば、年齢60歳で、安静時心拍数が70/分の人の場合の目標心拍数は、

 <年齢が60歳で、安静時心拍数が70/分の人の場合>
    目標心拍数={(220-年齢)安静時心拍数}×0.50.6+安静時心拍数
         ={(220-60-70}×050.670115124/

になります。
この式で求めた心拍数は、主観的には「比較的楽である」~「ややきつい」と感じられ運動強度(図1-b:主観的作業強度〔RPE〕を参照)であり、概ねこれがLTレベルに相当するとされています。この式によって計算した各年代別の目標心拍数を図1-cに示しましたので参考にしていただけたらと思います。

運動強度は、3〜4メッツぐらいでいいんではないでしょうか?

メッツ

 




画像の説明

地域の多職種連携

人口の高齢化に伴い,ますますの増加が予想される慢性心不全の増悪予防には、患者の特性を把握しながら適切な診療方針を選択し、包括的に治療を行っていくことが大切となる。そこで力を発揮するのが多職種が介入する疾病管理プログラムだ。慢性心不全診療においてチーム医療を推進していくための方策を「末期心不全への取り組み」「慢性心不全看護認定看護師の役割」「低栄養への対応」という3つのキーワードから議論。

多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは、構成メンバーが患者・家族、医師、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフ、訪問看護師、ソーシャルワーカーなど

 

心不全 終末期

 

心不全の末期に多職種で取り組むことが重要とされていますね。心不全には終末期を迎える前に末期の状態が長期間存在するという他の疾患と大きく異なる特徴があります。末期とは具体的には最大限の薬物治療でも治療困難な状態で場合によっては人工呼吸や補助循環を導入している状況です。もう治療法がない終末期と比べ医師は「まだ助けられる」と治療方針を最も迷う時期です。断続的に増悪するという心不全の性質により,どこから末期なのかがわかりにくいことも,治療方針の選択を難しくしています。

欧米のガイドラインでは,状態が悪くなり始めたときを末期ととらえ,医師一人で抱え込まないよう多職種で長期にわたる患者支援を行うべきとされています。

 

ここでは,患者・家族に生命予後や治療のオプションを説明し,延命治療での希望やDNR(Do not resuscitate)の意思などの「事前指示」を確認すること

 

日本の心不全診療では欧米では当然のホスピスや,外来でのモルヒネを用いた緩和ケアもなく医療者側から出せるオプションが少ないのが現状です。

欧米で指針が出された背景にはこのような治療を行うほうが患者さんも安らかな死を迎えられるという大前提があるわけですよね。米国のガイドラインの序には「やすらかな最期を迎えたいと願う心不全患者は多いものの,急変時には望まない処置がしばしば行われるため,事前に方針を決めることが末期医療の前提」と書かれています。急変時には治療方針を考える時間がないため,事前に話し合う必要があります。

米国のガイドラインでは,「心機能が悪い場合,1年以内に約半数が亡くなるという報告がある」と伝えた上で,治療を選択すべきとされています。

時間の経過とともに患者さんの考え方が変わることもあるため,頻繁にコミュニケーションをとることが大切だと思います。

心不全の末期医療がまだ一般的ではないなか末期医療が「医療を差し控えたのではないか」と非難される懸念もあるのではないでしょうか。

そういった声から末期医療に取り組む医師を守るためには,多職種が入ったチームで検討して,「その治療は間違っていない」と表明していくことが,今の日本でまずできることだと思います。

末期医療のコンセンサスを得る上で,チームで治療を進め,患者・家族の意見を聞きながら継続してカンファレンスを行うことは不可欠でしょう。

欧米でも,末期医療では必ず多職種でカンファレンスを行います。また入院が必ずしもベストの治療方針とは限らないので,地域で支援を行う形も含め医療職以外を交えたカンファレンスの必要性も示されています。

『終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン』(厚生労働省,2007)では,患者本人が意思表明できない場合,チームで治療方針を確認することが提唱されていますね。

ご本人が意思表明できなくても,多職種で検討したなかで「現在のベスト」と考えられる治療を選択することがポイントでしょう。患者・家族のことを考慮して,現在の医学でベストの治療を多職種で行っていくことが適切だと考えています。

2012年4月より慢性心不全の看護に特化した慢性心不全看護認定看護師の認定が始まりますがひと言でいえば心不全の増悪予防です。慢性心不全では患者さん自身での疾病管理が重要なので,心不全看護師には,服薬管理やセルフモニタリング,早期受診の大切さを患者さんに理解してもらう役割を担うことが期待されています

心不全では,例えば動悸が存在しても,患者さんは「胸の辺りがワサワサして気持ち悪い」といった自覚しかなく,医療者と患者さんの認識が異なることが多いため,心不全の症状をまず患者さんに理解してもらいます。また体重を測定していても,患者さん自身が「体重が急に増加したら受診が必要」と認識していなければ意味がないため,心不全看護師はセルフモニタリングの具体的な指導を患者さんに行う予定です。

 

現状では規模の大きい病院は心不全患者を抱え込み,地域で診るという視点をあまり持っていません。

なるほど。ただ,在宅で心不全患者を診る場合,病院の医師と在宅医とで,主治医が定まらない可能性があるのではないでしょうか。

確かに,心不全では状態が悪くなるとどうしても専門的な治療が必要となるため,病院とのつながりは切れません。在宅医が経過観察と判断した患者さんが緊急入院となるなど,医師・患者間に信頼関係が生まれにくい状況もあります。

専門医だけでは,すべての患者さんに対応することはできません。だからこそ,在宅医の力も合わせて慢性心不全を診ていく必要があると考え方を変え,地域も含めたチーム医療を推進していく必要がありますね。

 

低栄養が最も問題となります。心疾患や高血圧症の高齢の慢性患者では,高率に栄養障害が発生することが報告されています。栄養状態が悪いほど感染症の発症率が高くなり,在院日数の長期化にもつながります。低栄養は心不全の明確な予後悪化因子となっています。エネルギーとタンパク質の補給,水分の管理の三つが重要だと私は考えています。従来,心不全患者には減塩がクローズアップされ,栄養士も減塩指導を行ってきました。しかし,2010年に心疾患の減塩食の食塩総量上限にかかわる厚生労働省の指針が,7g/日から6g/日に減量されるなど,現状では減塩指導は徹底されています。ですから,前述の三要素をきちんと精査し,適切な量をチームで提供していくことがこれからは大切になるでしょう。

日常的なモニタリングでは体重が重要なので,心胸郭比を確認し主治医や看護師から水分のイン・アウトの情報をもらいながら水分をコントロールし,患者さんの体重増加を防いでいます。

栄養面の評価は確立した評価法はまだないのですが,身体の計測値や臨床検査値,日常の栄養摂取量のほか,「独居」「山間部に住んでいる」などの住居環境,心理状態や認知機能を合わせて複合的に栄養アセスメントを行っています。

最近海外で注目を浴びている,MNA®(Mini Nutritional Assessment)という栄養評価ツールがあります。これはわかりやすい言葉を用い,6項目の質問事項で高齢患者の栄養障害を抽出する手法です。簡易ながらも的確に低栄養を把握できるというエビデンスが多数出ているため,チーム医療に導入するツールとして適していると思います。

心不全はさまざまな疾患の終末像という認識が患者さんにないことを普段感じています。「死」をイメージしやすいがんなどとは異なり,心不全では多くの場合,弁膜症や狭心症といった疾患名と同様にとらえていることが多く,病名は知っていても病態はわからない患者さんが多いのではないでしょうか。

 ですから,まずは患者さんに疾患のイメージをもう少し持ってもらう必要があると思います。

患者向けの心不全の患者手帳すらない状況ですから,患者さんが自分の管理を自己完結できるような資材作りも必要です。

その基本概念は多職種介入で心不全の推奨治療の遵守率を上昇させ,予後を改善させることです。

情報の共有化を模索していくことが大切ですね。

欧米であれば,明確になっている「悪いニュースの伝え方」一つとっても,日本の臨床現場をみると愕然とすることが多いのです。

その診療の在り方を探るための一つの方法が,チーム医療なのだと思います。

私の施設でも,以前は個人的にご家族に伝えていた悪いニュースを,チームで行う毎週の心不全カンファレンスでコンセンサスを得てから伝えるように変更する予定です。

 

 

地域連携

心不全の予後は、がんより悪いか
 国立がん研究センターなどの研究班が発表したがん患者の10年生存率(全がん協ホームページ)によれば、甲状腺がんや乳がんでは80%を超えますが、膵臓がんは5%を切り、がんの発生部位によって予後に大きな差があることがわかりました。がん全体の10年生存率は約58%でした。
 一方、心不全では、一番重篤な患者さん(NYHA分類 Ⅳ度)では、1年で50~60%が亡くなります。軽い患者さん(ⅠからⅡ度)でも、1年で5~10%亡くなります。ですから、重篤な心不全の予後は、がんと同程度、あるいは一般的ながんより予後が悪いといえるでしょう(1)。

心不全の予後

 

心不全患者さんが気をつけること
 慢性心不全の治療では患者さんによる食生活の管理が重要になります。
 まず塩分を控えることが重要です。軽症の患者さんで1日食塩7グラム以下(高血圧学会は6グラム以下を提唱しています)、重症の患者さんで3グラム以下を目安に制限します。
 カップラーメンには食塩が5~7グラム含まれています。買うときに食塩の含まれる量をよく見て、汁まで飲まないようにしましょう。
 次に、水分を取りすぎないことです。むくみ、体重増加が大きい場合には、医師から制限されることがあります。
 そして、必ず禁煙、原則として禁酒です。
 日常生活では十分な休養と適度な運動を心がけ、精神的・身体的ストレスを生じないように無理のない生活を送ることが大切です。
 また、薬は正しく服用しましょう。服薬時間と回数を守り、自己判断で中止や変更をしてはいけません。

 心不全は、急性増悪を繰り返して進行します。急性増悪で再入院すると、回復しても心機能はもとのレベルに戻りません。急性増悪による再入院の 原因は、塩分・水分制限の不徹底、治療薬服用の不徹底、過労やストレスといった患者さんの要因が6割を占めています(2
 ですから、日常生活の注意をよく守り、毎日、体重や排尿、むくみなどのチェックを心がけ、悪化の兆しがみられたら、かかりつけ医に報告してください。
 
患者指導



この分類は簡便ですが、このような症状は心不全以外にでも生じることがあるのが少し問題です。

 

 

 

 

しかも予後に関しては、肺癌、胃癌、乳癌、結腸癌よりも心不全患者さんの方が非常に悪かった。

 

 

症状や経過などの問診、呼吸音・心音の聴取などが基本ですが、体の中の酸素量の測定や胸部レントゲン撮影による肺の血液のうっ滞具合により診断や重症度がある程度判ります。

心不全を扱う文献での心不全の定義として、1971年のフラミンガム研究の心不全の診断基準が現在でもスタンダードになっています。しかし、実際は、患者さんを目の前にして、この患者さんに心不全があるかないか診断することは容易ではありません。

 

NYHAⅡ度で外来でみている患者さんが最も多く、BNPは大体80〜200ぐらい

 

 

去る子ペ二亜 心不全でフレイル

3点 1週間以内に受診

5点 すぐに基幹病院に受診