骨折とは?
骨が壊れることを骨折と言います。したがって、ヒビも骨折ですし、骨の一部分が欠けたり、凹んだ場合も骨折です。骨折は骨に力がかかって発生します。健康な骨では、かなり大きな力がかからないと骨折しません。しかし、骨全体が弱っていたり、骨の一部が溶けていたりすると、弱い力でも骨折します(病的骨折)。また、健康な骨に弱い力がかかる場合でも、同じ場所に繰り返し長期間かかり続けると骨折することがあります(疲労骨折)骨とその周囲は神経と血管が豊富ですので、骨折するとその部位に痛みと腫脹が出現します。
骨折にもいろいろな種類があります。横から物体が衝突すると横骨折、縦方向に圧力がかかると斜骨折、ねじれる(ひねる)力がかかるとらせん骨折、屈曲(曲がる)力がかかった場合は、楔状骨折、非常に強い力が加わった場合は粉砕骨折になります。
閉鎖骨折(単純骨折)は、骨が皮下で折れている。皮膚を破らず、骨折端の露出がありません。また、開放骨折(複雑骨折)は、骨折端が軟部組織と皮膚を破って露出します。骨髄炎などの感染症を発症しやすく、緊急処置が必要なので、翌日まで待たず、6〜8時間以内に病院を受診しましょう。(縫合できなくなる)
骨折の初期対応
初期対応の基本は、RICEです。Rest:安静 Icing:冷却 Compression:圧迫 Elevation:挙上です。その上で、2関節固定をします。受傷部位の近位と遠位の2関節を含めて良肢位で固定します。良肢位とは、もしも固定されたままで関節が動かなくなったと想定される場合にも、そのかたちで日常生活において支障の少ない肢位を言います。肘関節:90°屈曲位 手関節:10~20°背屈位、回内外中間位 膝関節:10~20°屈曲位 足関節:底背屈中間位。基本肢位とは、自然起立位で体幹、四肢の諸関節が取る肢位を言います。
シーネを当てて、包帯で固定します。慌てて頭が真っ白な時は、なにせ長め過ぎるぐらいに長く、大げさに固定するほうがいいでしょう。大は小を兼ねるです。長管骨の骨折に副子を当てるときは、長軸方向に牽引して当てるようにしましょう。例外は、開放骨折と膝と肘は、感染の原因になったり、血管や神経を傷つけることが多いのでそのままで固定します。
かかりつけ医がシーネを巻くとしたら、手関節と足関節かなと思います。実際の現場では、手首は少し背屈して指を動かせるようにして肘から2横指遠位まで、足関節は、90度屈曲して指を動かせるようにして膝下から2横指遠位までシーネ固定することが多いので、2関節固定ではないわけです。
しかし、整形外科的外傷学総論として大事なことは、筋骨の外傷ではめったに致死的になることはありませんので、まず救命処置が優先です。特に鎖骨より上の外傷や多発外傷がある場合は、頸椎損傷があるものとして対処することが大事です。(直ちに頸椎の固定です)気道確保は、通常のACLSでは、頭部後屈顎先挙上ですが、外傷の場合は、常に頸椎保護と一体にして行うため、頭部後屈はしてはいけません。頭部を固定して長軸方向に真っ直ぐ牽引しながら、下顎挙上だけ行います。中間位(屈曲と進展の間)を保つようにします。バックボードと頸椎カラーで固定。必ず、2人以上で行います。レントゲンは頸椎カラーを付けたままで撮影しましょう。
骨折の診断
レントゲンを撮ります。単なる打撲や関節脱臼でも骨折と似た症状が出るので、診断をはっきりさせるには必要な検査です。
バイクを運転中に、交差点で自転車と接触し転倒。レントゲン写真で上腕骨が真っ二つ、誰が見ても明らかに骨折と診断できますよね。 これなら僕ら素人でも骨折と自信を持って診断できるかもしれません。
MRIで確認すると、白矢印部のように、黒く写っているところが骨折しているところです。MRIだとはっきりとわかります。
レントゲンやCT検査でも2〜13%の見逃しがあると言われています。まともな整形外科医が適切にとられたレントゲン写真(必ず2方向)を見れば、大概は骨折の診断はそう難しくないんですが、骨折の転位(ずれ)が無かったり、X線写真に写りにくい骨折の場合は、普通のX線写真だけではなかなか診断が難しい症例があることも事実です。僕の父が玄関で転倒、姫路日赤でレントゲンを撮ったときも、レントゲンでは大丈夫そうですねと言われましたが、念のためCTも撮っておきましょうと言われ、CTで骨折が判明し入院となりました。
鉛筆を持ってギューと曲げてボキッと折ったら誰が見ても骨折ですが、ぐっと力をいれてミシミシっていったところで止めたらレントゲン写真もCTも正常です。しかし、MRIならミシミシっていって繊維が折れたところが水がたまってきてわかるわけです。これを骨挫傷と言います。骨折の診断に最も優れているのはMRI検査です。
でも、CTやMRIがなくても大丈夫です。どんな疾患でもそうですが、骨折の診断でも最も感度が高いのは、問診と身体診察です。受傷機転があって、腫脹があって(左右を比較することがポイント)です。押さえたら「痛い!痛い!!!」って叫べば、折れているんです。レントゲンの器械はあっても、撮らなくても大丈夫です。患者さんから撮ってほしいと言われれば、レントゲンを撮ってあげることは問題ありません。肺炎を心配している人に、全然大丈夫だと思っても患者さんに寄り添って胸部レントゲン検査のハードルを下げているのご同じですが、撮ったとしても僕ら内科医が読めないので、レントゲンは役にたたない? だけです。だた、レントゲン写真をとって明らかな骨折があれば、折れてますねでいいんですが、異常なさそうでも「大丈夫です」と言ってはいけません。優秀な整形外科の先生が数人見ても異常がない骨折もあるというのがレントゲンの限界です。「今ははっきりした骨折はなさそうですが、折れているかもしれませんから1週間様子をみましょう」と一言。
ある大学病院の整形外科で、足が痛いとの訴えで来院された患者さん、研修医がまともに診もしないで「レントゲン撮ってきて」とひと言、レントゲン写真は異常なし。研修医は「異常ないですね。痛い止め出しときますね」翌日、痛みが治まらないので再診、足を見ると立派な帯状疱疹でした。確かにレントゲンには出ませんよね。上級医から大目玉です。患者さんの話を聴く、診る、触るは、基本です。
橈骨遠位端骨折
「転びそうになって手をついて、手首が痛い」と言われた時に、まず、橈骨遠位端骨折を考えます。骨粗鬆症による骨折は、50歳ぐらいから増えてきます。高齢者になれば、そのままバタンと転倒しますが、若い内は、反射的に手をつくことができるため、手首の骨折から始まります。
レントゲンでわからなくても圧痛の方が大切です。患者さんの右手です。手首に尺骨の突起(小指側)と橈骨の出っ張り(親指側)があり、その間、やや橈骨よりに小さなしこりのような突起(赤い塗りつぶし)をふれます。これをリスター結節といいますが、その下部(近位側の赤で囲んだ四角の部分)が橈骨の遠位端でこのあたりを押さえて圧痛があるかどうかを診察します。もし、痛いと言えば、橈骨遠位端骨折を強く疑います。
舟状骨骨折
橈骨遠位骨折ではなさそうな時、手首が痛いと言えば、次に疑うのは、舟状骨骨折です。手根骨のひとつで、親指をそらすと手首の所にできるくぼみ(アナトミカルスナッフボックス:解剖学的嗅ぎタバコ入れ 長母指伸筋腱と短母指伸筋腱にかこまれた部位)に圧痛があります。
舟状骨は手関節にある8つの手根骨の1つで母指(親指)側にあります。舟状骨の骨折は、通常のX線(レントゲン)写真の撮り方では骨折は見えにくく、見逃されてしまうこともあります。放置すると偽関節になりやすいのが特徴です。(偽関節とは、骨折した骨がつかず、関節のように動くもの)舟状骨骨折では、偽関節になると手首の関節の変形が進行し、手首に痛みが生じて、力が入らなくなり、また動きにくくなってきます。
椎体骨折
診断は、レントゲン検査を行うことで確定します。椎体骨折部の粉砕や脊髄損傷のある場合、転移性骨腫瘍が疑われる場合はは、CTやMRI検査が必要になります。
骨粗鬆症による軽度の骨折(圧迫骨折)の場合は、簡易コルセットなどの外固定をし、前屈(お辞儀する動作)を禁じ、比較的安静にします。安静にすることで、3~4週ほどでほとんどが治ります。強い外力による(破裂骨折)ものは、不安定性強かったり、脊柱管(脊髄部)が骨片で圧迫を受けていたりしている場合や、いつまでも疼痛が残るものには、手術が必要になることがあります。
椎体骨折は、じっとしていたら痛くないんです。動くと痛いので、寝返りするのがつらい、トイレに行こうとしたら痛いという症状です。(安静時に痛い場合は、転移性腫瘍、化膿性脊椎炎、強直性脊椎炎を考えます)動くと腰が痛いといいますが、診察で腰部をドンドンと叩いても殴打痛を認めません。背中は2点識別が5〜10cm (唇 2〜3mm 指先 3〜6mm)とかなり鈍感で、実は圧迫骨折の好発部位は、Th12 L1とかなり上なんですね。だから叩くのももっと上、鳩尾の背中当たりを叩かないと「痛い!」って言わないわけです。
大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折は、転倒して動けないて起き上がれなくなって、救急車で病院に搬送されるのが典型例ですが、かかりつけ医が診る場合は、歩ける大腿骨頸部骨折が来てしまうことがあります。転んでから股関節周辺が痛いんですがといいならがビッコをひきながら歩いてくるということも十分にあり得ます。大腿骨頸部骨折になると圧痛と言っても骨が大きすぎてピンポイントには難しいですよね。まれに恥骨骨折もありますね。
診察の手技で、パトリックテストという方法があります。仰臥位でも座位でもいいんですが、下肢を膝頭から内転と外転させると股関節に痛みがあれば骨折と判断して、整形外科に紹介しましょう。
老人ホームなどで転倒、股関節が痛いと言ってますから診察お願いしますってパターンもあります。どうでしょうか?左足が短縮し、外転しています。大腿骨頸部骨折の典型例です。
大腿骨頸部骨折は、折れる場所によって、治療法や合併症、予後などが異なります。大腿骨の頸根っこ(頸部骨折)で折れると骨頭への血管がちぎれて、骨頭へ血流が行かなくなり、骨頭は壊死してしまいます。転子部骨折は血流が豊富でくっつきやすいのですが、大出血や脂肪塞栓などの重篤な合併症が起こりやすくなります。また、高齢者で長期臥床を余儀なくされると、下肢静脈血栓症から肺塞栓になることもあり、必ず、その危険性をムンテラし、弾性ストッキングを履かせておかないと(エビデンス的には予防効果は?)裁判沙汰になることもあります。
大腿骨頸部骨折 | 大腿骨転子部骨折 | |
折れる部位 | ||
合併症 | 無腐性壊死 → 人工骨頭 |
大量出血が多い |
肋骨骨折
整形外科の先生が見ても4割は分からないと言います。肋骨骨折に限らず、最初のレントゲンではわからないことは山ほどあります。1ヶ月後に骨折腺がでてくることも稀ではありません。患者さんが、痛いと言ったら「骨折はない」とは言ったらだめなんですね。僕も肋骨骨折かもしれないからレントゲンを撮ってほしいと言われたら、肋骨骨折の診断はできなくても、内科的疾患のルールアウトのために撮っています。そして「肋骨骨折は、ちょっとはっきりしませんが、ひびが入っているかもしれません」と言ってます。肋骨骨折は、レントゲンを撮らなくても、既に問診と診察で診断はついているわけです。整形の先生に肋骨骨折の診断にレントゲンを撮る意義は?と聞いたら、ひとつは3本以上折れていたら、入院をすすめます。特に痛みのために喀痰の排泄ができない高齢者は無気肺の心配があるようです。
肋骨骨折の診断に、超音波検査が有用なようです。胸部レントゲンでよくわからなくてもエコーで分かる症例もあるようです。しかし、確定診断がついたとしても治療方針がかわるわけでもないので、それがどうしたって感じもあるようで、臨床現場では、レントゲンが主流のようです。
突き指
末節骨基部骨折
中節骨基部骨折
第5中足骨基部骨折
捻挫したんですけど、最初から疑って圧痛をとることが大切です。
視診 腫脹 紫斑は?
痛む場所から離れたところから触診
肘を打って、腫れている場合は、あまり知ったかぶりはせずに、整形外科に送りバントしています。
副子固定(レントゲンは副子を付けたままでとること アルミの副子もレントゲンが通過する)
レントゲンは、必ず2方向とります。(見落とし予防)
骨折の予防は日常生活での安全を追求する事です。車ではシートベルトと安全運転、スポーツでは十分な準備体操、飲酒では泥酔を避けることが骨折予防につながります。
高齢者の場合は家の中にも危険があります。手すり、滑りにくい靴下、ポータブルトイレなどが有用です。骨が折れやすくなる骨粗しょう症への対策も、年を取る前から始めることが重要です。
転倒して歩けなくなった80歳、女性
鎖骨骨折
三角巾の使い方
鎖骨バンド 胸をそらせる 手がしびれるようなら少し緩めてください
肘や膝の外傷は、複雑で難しいので、最初から整形外科に紹介したほうが無難なようです。