僕が「旅行医学」という言葉を初めて耳にしたのは、アフリカのケニアに赴任する患者さんのことについて姫路の予防接種の大家の先生にご相談の電話をしたときでした。最初は「りょこういがく」との音に意味がわからず、とんちんかんな返答をしておりました。

日本旅行医学会」が設立された趣意は、日本旅行者の健康サポートを主眼とした研究・教育・サービスの提供を国内で行い、旅行者の健康と安全を考えるとあります。

日本では、毎年1500~1900万人の日本人が海外への旅行に出かけているそうです。(法務省 出入国管理統計より)その中で旅行中に脳血管障害や心筋梗塞で入院治療を受ける患者数は年間700人以上にのぼると推定されています。(実際はもっと多い)初期治療に必要な医療技術、医療設備が十分に整っている中国、韓国、アメリカ合衆国(日本人の主な出国先)でさえ、言葉の問題や地域の医療情報が不確実であることから、要治療者が適切な高度先進医療の恩恵を享受できない場合も多い。近年は障害を持つ人々、高齢者が積極的に海外へ出かける傾向にあり、安心して海外旅行ができるよう医療サポートなどの環境を整えなければなりません。一方で外国からの日本訪問者が、日本国内での医療サポートを求める例も増加しているが、日本国内での対応は十分ではない。東京五輪に向け、外国の旅行者も増える中、旅行者の医療サポートの実用を調査し、具体的な提言と実際の旅行者へのサポートを行うことも急務である。

また、日本人の旅行先が世界中の国・地域に広まっているにもかかわらず、欧米人に比べてワクチン接種に関する意識が低く、訪問地の衛生状態、医療状況に関する適切な情報を得て、健康を守るために必要なワクチン接種を受けずに海外に出かける旅行者も多く、感染の危険度は高まっおり、海外渡航者におけるワクチン接種に関する啓蒙も大切です。そして交通の高速化により国内に発症前に持ち込まれる危険度も増してきており、帰国後の感染症管理に関する検討も重要な課題となってきている。

感染症についての情報

渡航感染症で大事なことは、とにかく渡航歴を詳細に聞く。どの場所にどのぐらいの期間いて、何をしに行ったのか(ビジネスでは少なく、VFR(知人、親戚への訪問)では高くなる)目的でかなりリスク判断ができます。あとは、熱帯熱マラリアは必ず除外する。これは渡航帰りの発熱の格言で、鑑別を挙げろと言ったら、「1にマラリア、2にマラリア、3・4がなくて5にマラリア」というぐらい大事です。熱帯熱マラリアは簡単に治療できる疾患で状態が良ければほとんどは死なない疾患ですが、見逃すと死んでしまう病気です。

マラリア

マラリア原虫をもった(ハマダラカ属)に刺されることで感染する病気です。アジア、オセアニア、アフリカおよび中南米の熱帯・亜熱帯地域で流行しており、1年間に約2億700万人が感染し、推計62万7,000人が死亡しています。日本でも100人近くが輸入感染で発症しています。1週間から4週間ほどの潜伏期間をおいて、発熱、寒気、頭痛、嘔吐、関節痛、筋肉痛などの症状が出ます。マラリアには4種類(熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア)あります。その中でも、熱帯熱マラリアは発症から24時間以内に治療しないと重症化し、しばしば死に至ります。脳症、腎症、肺水腫、出血傾向、重症貧血など、さまざまな合併症がみられます。

マラリアの流行地域

 

腸チフス・パラチフス

腸チフス、パラチフスは、それぞれサルモネラ属のチフス菌とパラチフス菌による感染症です。感染したヒトの便や尿に汚染された水、氷、食べものを取ることによって移ります。腸チフスとパラチフスの症状はほぼ同じですが、一般に、腸チフスに比べてパラチフスの症状の方が軽症です。感染して1~3週間は症状がなく、その後、高熱、頭痛、全身のだるさ、高熱時に数時間現れる胸や背中、腹の淡いピンク色の発疹、便秘などの症状が現れます。熱が高い割に脈が遅いのが特徴的です。効果のある抗生物質を長期間服用します。腸チフスには有効なワクチンがありますが、日本では承認されていません。生水、氷、生肉、生野菜などから感染する可能性があります。十分加熱調理してあるものを食べましょう。発展途上国では、ビン入りミネラルウォーターや、一度沸騰させた水を飲みましょう。また、カットフルーツなども洗った水が汚染され、感染することがありますので、皮の傷んでいないものを自分でむいて食べるようにしましょう。腸チフス、パラチフスは世界中でみられる感染症ですが、特に南アジアでは他の地域の6から30倍高いリスクがあります。