腹痛(急性腹症) 

僕が、救急外来で最も苦手な主訴は「腹痛」です。問診票に「腹痛」と書いてあったらちょっと嫌ですね。少し構えて、気合を入れ直す感じですかね。なにせ鑑別診断をする疾患が多すぎです。心筋梗塞など腹部以外の疾患も混じってきます。まあ、実際の臨床では、軽い急性の胃腸炎から便秘なんてものも多いわけですが、安易に胃腸炎、便秘って診断しているときは、ゴミ箱診断になっていないか自問自答して、便秘と思って浣腸して「少しよくなった」とよしよしと思っていても、帰る間際にやっぱり痛くなった?これって便秘じゃないわけですね。これらの中から急がなくてはならない腹痛を拾い上げる作業がまず、必要です。高齢者や乳幼児、精神疾患の患者さんは、症状が乏しい場合もあります。特に血管系疾患は腹膜炎を伴いません。腹膜炎症状があるだけが重症ではないわけです。

急性腹症(きゅうせいふくしょう)とは、急激に発症し、激しい腹痛を伴う疾患の総称で、とくに救急医療の現場で、早急に外科的処置が必要か否かの判断が要求される症候です。単なる腹痛と違い、差し迫った緊急事態というニュアンスがあります。

原因としては、消化器疾患に限らず婦人科疾患、泌尿器科疾患なども含まれますが、まずは、あせとアミノフェンの点滴で痛みをとってあげましょう

アセトアミノフェン

NSAIDsを使うと炎症がおさえられて腹膜炎の痛みがマスクされてしまって診断がわからなくなる

それでは、診断です。まずは、最初にする一番大事な質問は

「今までに同じような痛みがありましたか?」です。これで「2年前に同じような痛みがありました」と帰ってくればもう診断がつきますよね。「その時の診断はなんでしたか」「尿路結石でした」はい、一丁あがりです。

腹痛の診断には問診が大切です。間欠痛か持続痛かを聞きます。間欠痛(波がある内臓痛:痛くなったり治ったりする)のは管の痛みです。波がある痛みにもタイプがあります。痛くない時はゼロですか?たとえば、下痢、みなさん今まで下痢をしたことがないという人はいらっしゃいますか?ガ〜と痛くなって、今日は大変だなあと思いながらさすっているとフ〜と楽なってよかったよかったと思っていたらまた10分ほどして痛くなってきますよね。あれって大腸の痛みです。(小腸のイレウスなどはもう少し強い痛みで波があり、痛くない時はゼロになる)尿路結石は、もっと強い痛みですよね(経験したことがないのでわかりませんが)人生で一番痛いような痛みで脂汗を掻きながら七転八倒します。そこら中を歩き回って、寝転んで、机を叩いて、痛い痛いともがいていますが、波もあるようで少し楽そうにしている時もあります。しかし、痛みはゼロにはなりません。だいたい聞くと痛い時は10/10楽になっても7/10ぐらいのようです。(卵巣嚢腫の茎捻転も七転八倒するようです)七転八倒している人は痛みの強さはたいへんなものでしょうが、医師としてはちょっと安心ですよね。少なくとも腹膜炎はありません。腹膜炎があったら振動で響いてこんなことはできませんから。次に胆石の痛みですが、これも分類的には管の痛みであり、最初は間欠痛だと思いますが、完全に胆石が詰まると胆嚢が圧が高くなってきて、胆嚢周囲で限局した腹膜炎を起すため持続痛になるようです。持続痛は膜の痛みで、限局している体性痛です。

間欠痛

また、年齢によって疾患の頻度が違います。若い人は、虫垂炎は必ず鑑別に入れておきます。高齢になってくるほど、虫垂炎の頻度は減少し、代わって腸閉塞や急性胆嚢炎、消化管穿孔などが増えてきます。

年齢

女性(妊娠可能)の場合、婦人科的な疾患が鑑別に入ってきます。月経周期のどのタイミングで痛みがあるのかが重要です。月経中に痛みがある場合は、月経困難症か子宮内膜症(月経中とは限らない)を考えます。子宮内膜症だと排尿時や排便時、性交渉の時の痛みを伴いやすいようです。PID(骨盤内炎症性疾患)は月経が終わってから排卵までの間に痛みが起こります。試験的に有名なのは、Fitz-Hugh-Curtis症候群(右上腹部痛を引き起こす肝周囲炎)などは、クラミジアによるものが多く、帯下が多かったり、膿性だったり、匂いがきつかったりします。月経中の性行為や婦人科の検診によることもあるようです。卵巣出血には排卵期の卵胞出血<黄体期の黄体出血があります。この原因は性行為による外傷性の出血ですが、多くは右側に起こります。(左側はS状結腸に守られている)また、子宮外妊娠は妊娠反応が重要ですがあまり経験がありません。

 

婦人科

①急性胃粘膜病変(AGML)大きなストレス、暴飲暴食によるものです。
②アニサキス症 しめさば、イカなどの刺身を食べて1~2時間以内です。
③胃・十二指腸潰瘍穿孔(せんこう)フリーエアーを認めます。
④胆石症 右季肋部の疼痛で、脂っこいものの食後に起こります。
⑤急性虫垂炎 吐き気を伴う上腹部痛から始まり、右下腹部に移動します。
⑥感染性腸炎 ウイルス性の胃腸炎と食中毒で、下痢が起こります。
⑦急性膵炎 アルコールや胆石発作が引き金になり、痛みが背部に放散します。
⑧大腸憩室炎 回盲部付近かS状結腸が多く、憩室に炎症です。
⑨虚血性腸炎 薬剤や食物に起因する場合があり、下血を伴うことが多い。
⑩腸閉塞 絞扼性イレウスの場合はすぐに緊急手術が必要です。
⑪腸間膜動脈血栓症 腸の動脈が詰まったもので、診断が難しい。
⑫腹部大動脈瘤破裂・解離性大動脈瘤 大動脈の瘤が破裂か亀裂で背部痛を伴う。
⑬尿管結石 下腹部痛や背部痛で発症し、血尿を伴います。
⑭子宮外妊娠 妊娠可能な女性に強い下腹部痛があり、貧血症状を伴います。
心筋梗塞 上腹部痛で発症、血圧低下、冷や汗があれば、心電図検査を。

診断には、問診や身体診察は、もちろん大切ですが、診療所のセッティングで最も威力を発揮するのが超音波検査(エコー検査)です。患者さんに対する侵襲度も少なく、多くの情報を得ることが出来ます。

FAST(focused assesment with sonography for trauma)緊急の腹部エコー検査
外傷に限らず、心嚢液(心タンポナーデ)、胸水(血胸)、腹水(腹腔内出血)の検出に有用な方法です。6つの場所で観察します。

(1)心窩部縦走査
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(2)右肋間走査
少量の胸水は、背側寄りの肋間で観察します。かなり上方での走査が必要です。
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(3)右肋間走査
Morison窩を観察します。
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(4)左肋間走査
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(5)左(右)側腹部縦(横)走査
側腹部の走査で上行結腸、下行結腸の外側を観察します。
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(6)下腹部縦走査(ダグラス窩)
直腸膀胱窩、直腸子宮窩(ダグラス窩)膀胱子宮窩を観察します。
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異常ガス像
腹腔内遊離ガス(free air)は消化管穿孔を診断する重要な所見で、肝表面で検出されやすい。多重反射を伴う高エコーを示し、呼吸や体位変換による不規則な動き(これが鑑別点)が観察できる。
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いろいろ調べてもよくわからないということもよくあります。救急外来にきた腹痛の2割は診断できないと言われています。こういった場合は、時間をかけたフォローアップが大事で「腹痛が強くなってきた」「歩いたら響く」「熱が出てきた」「血便がでた」など悪くなったらまた来てくださいと説明しておくことが大切です。実臨床の現場では、診断できなかった腹痛の8割は2週間程度で自然治癒していますが、2割が悪化して再診していました。しかし、高齢者の場合、その時の腹痛と関係あるかどうかは不明ですが、1割に大腸癌が見つかったという報告もあるので、勝手に治った症例でもがん検診を勧めることは忘れずに。

 

ゴミ箱診断 胃腸炎と便秘

急性胃腸炎の診断には、必ず「嘔気」「嘔吐」「水様性下痢」の三徴が揃わないと診断したらダメですね。ノロウイルスやロタウイルスは、口から入って上部空腸に感染します。胃の動きが止まってゲ〜ゲ〜吐きます。小腸から水分がたくさん出て、おしっこのような水様便が何回も出ます。下痢が伴わない時は、胃腸炎とは診断しないようにしましょう。

 

腹部大動脈切迫破裂・解離、腸間膜動脈閉塞症、絞扼性腸閉塞、卵巣・精巣捻転などはお腹は柔らかいのに激しい腹痛です。血管障害は腹膜刺激症状が出ないので注意が必要です。

非特異的腹痛でも発熱を伴う場合や白血球減少を伴う場合、6時間以上持続する強い腹痛がある場合は、血行障害による腹痛の可能性もあり、小児であっても造影CT検査が必要な場合もあります。

しかし、腹部CTが役に立たない腹痛もあります。非解剖学的腹痛とでもいいますか? DKA、アレルギー性血管炎、心筋梗塞、腹壁皮神経絞扼障害、帯状疱疹、Slipping rib syndromeなどがあります。

AAA破裂

尿管に炎症が及んで尿潜血陽性になるため、尿管結石の誤診も多くなりやすい。骨盤腔に出血すると便意を催す。AAAが5cm以上になると75%が触知できる(3〜4cmだと33%しか触診ではわからない)

タバコを吸う男性に多く、破裂は女性に多い

破裂しても腹部エコーではわかりません。(腹部CTでは診断 感度77〜94% 特異度75〜100%)

後腹膜に血液が回って皮下出血あり

Grey-Turner 側腹部

Cullen 臍部周辺

Bryant 陰嚢部

Fox 鼠径部

 

急性上腸間膜膜動脈閉塞症(塞栓症、血栓症)

腹痛 間欠痛 持続痛 

塞栓にしろ血栓にしろ最初は血栓が小さく、末梢であったりして画像診断でも診断できないことが多く、半日以上経って、中枢側まで血管が閉塞して初めて造影CTなどで診断されるため、疑った時は時間を空けて再検査の必要があります。

腹膜刺激症状

板状硬 十二指腸潰瘍の穿孔が圧倒的に多い。下部消化管の穿孔は、お腹がパンパンに張る感じで板状硬にはなりにくい。

筋性防御

反跳痛

胆石、尿路結石はもんどりうつ

車で来る時振動で痛かったですか?

Blumbergサイン

Psoas徴候(腸腰筋)右足を

女性の腹痛はお腹が柔らかいのか 女性生殖器は骨盤内深くにあるから。子宮外(異所性)妊娠、卵巣腫瘍茎捻転 卵巣出血 骨盤腹膜炎 

 

胸部Xpの方が、free air(立位で5分間)が出やすい。胸部の方が接線方向になるので出やすい

憩室炎 粘膜しかない。微小穿孔で脂肪組織に囲まれて、小膿瘍になっている 極めて限局した圧痛 間欠痛で起こりやすい。炎症なので

虫垂炎 8時間〜17時間でわかる

腸閉塞

間欠痛 排便、排ガスなし 手術歴

レントゲン ガス 二ボー ガスの分布を見る 超音波 水の分布をみる key board sign ケルクリング襞が見えて to and froがあれば

腸閉塞が進んでくれば、ガスが無くなってくるのでわからなくなります。病初期はレントゲンが有効だがすすんでくるとわからない

下痢(腸閉塞時に腸管運動が亢進して閉塞部より肛門側の軟便が一気に出る)をした後、その後、全然出ない

鼠径ヘルニア

閉鎖孔ヘルニア 恥骨の横が腫れている  閉鎖神経の圧迫(内腿がしびれる)Howship-Romberg徴候 ガムふんじゃったサイン 高齢のやせた女性

大腿ヘルニア 高齢の女性 女性は妊娠したことがあって、骨盤底筋がゆるむから

内ヘルニア

餅の腸閉塞

昆布巻き 糸こんにゃく キノコ類 わかめ 柿 タケノコ

腸閉塞は圧倒的に小腸に多い。狭いから 術後癒着性が多い

蠕動なら間欠痛 虚血なら持続痛 炎症も持続痛

S状結腸捻転 コーヒー豆サイン 超高齢者

若ければ、盲腸捻転 

大腸癌

腸閉塞 機械的閉塞

血行障害なし 

血行障害あり 絞扼性 絞扼性で壊死すると痛みが軽減

イレウス 麻痺性

胆石 心窩部の鈍痛

コレステロール結石はCTでは見逃す

胆嚢が大きい Murphyは陰性

天ぷら 卵は胆嚢が収縮する

関連痛 胆嚢 右肩 膵尾部 左肩が痛い 骨盤腔の痛み

胆石 平滑筋がほとんどないので鈍痛、波の痛みにはなりにくい

胆管もほとんどないので持続痛

尿管は平滑筋がたくさんあるので間欠痛

尿管結石は炎症なので持続痛

腸管は蠕動痛なので間欠痛

虫垂は蠕動がないので、持続痛

肋膜 胸膜 横隔膜 腹膜

胆石 → 胆嚢炎 Murphy徴候陽性

胆石 10〜20%有病率

80%はそのまま発作なく一生すごす

急性膵炎 胸膝位が楽

アラーゼ 1/3は上がらない(アルコールたくさん飲む)

リパーゼが特異度が高い

伸ばされたり ねじれたり 炎症 虚血 化学物質 腫瘍の浸潤

副交感神経 上部気管 横隔膜 食道 胃カメラ 胃粘膜 痛くない

 

関連痛 交感神経と体性神経(臍 10番 六番  鼠径部 12番)

副交感神経 横隔神経(副交感神経)横隔膜に炎症が及ぶ疾患、胆嚢炎 膵炎などはC3〜C5 肩、首が痛い

横隔神経は心膜枝を出している 

胆石 右肩甲骨先 Collin’s sign 感度51%

Boa’s Sign 感度7% 知覚過敏

胃 胆嚢 膵臓 腹腔神経節 大内臓神経 Th5〜9 胃が痛い

小腸 大腸(上行〜横行) 上腸間膜神経節 小内臓神経 Th 10〜12 お臍が痛い

大腸(下行〜肛門) 下腸間膜神経節 腰内臓神経 L1〜2

腹腔神経節と上腸間膜神経節がつながっている

前皮神経絞扼症候群 ACNES

動くと痛い

腹直筋恥骨付着部炎

slipping rib syndrome

腸骨鼠径神経絞扼障害

陰部大腿神経絞扼障害

尿膜管遺残

剣状突起痛

盛り上がる紫斑

血管炎と感染症

IgA血管炎(ヘノッホ・シューンライン)

紫斑は100% 関節痛 75%(初期症状 15%) 腹痛 50% 下血(鮮紅色)30% 紫斑 浮腫 重力の影響で下肢に目立つ、仰向けに寝ていると背中に出ます。

子供に多い 圧倒的に10歳以下 90% 成人 10%

10〜40%は腹痛が先行して翌日ぐらいに紫斑がでることもある

原因 インフルエンザワクチン 感染 アレルギー

DKA 高カルシウム血症 

腹部アンギーナ

大建中湯 血流をよくする

2〜3時間(脂肪分が多ければ3〜4時間)膵液、胆汁をかける 

小腸 食後4〜6時間で通過 回腸末端で胆汁、水分を再吸収 水様便

大腸 1〜2日で通過

精巣捻転

精巣上体

立って診察する

2週間以上前にも痛い

外傷で

朝立ち 勃起する 

蹴られていたかった

精巣挙筋反射がなくなる 感度100%

自分で握ってもらう

 

 

 

 





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急性膵炎

左前腎筋膜(ゲタロ筋膜)に及ぶ輝度上昇
アミラーゼ正常の膵炎は多い。原因としては、胆石(45%)アルコール(35%)が多いが、薬剤、ウイルス(CMV、EB等)中性脂肪>1000mg/dl

 

閉鎖孔ヘルニア

高齢で痩せ型の女性が大腿内側部痛を訴えている場合は、出産歴を問診。全絞扼性イレウスの0.2〜0.4%

卵巣出血

排卵日や黄体期に重なる性行為は卵巣出血の誘因となる。月経中の性行為は骨盤腹膜炎の原因になる。

 

腹痛の機序による分類

 

 腹痛の原因とその対処を知るために、腹痛が生じるしくみから説明します。腹痛は発症メカニズムから内臓痛、体性痛、関連痛に分けられます。

 

■内臓痛(visceral pain)

 管状の臓器(消化管、尿管、子宮・卵管など)の被膜の伸縮・収縮や炎症・壊死・組織圧の上昇により出現する疼痛です。自律神経を介して感じる疼痛です。自律神経末端は腹腔臓器と腹膜に分布しています。

 

 腎臓、尿管を除く腹部臓器の自律神経は両側支配であるため、痛みの部位は原因となる臓器の近くではなく、体の中央付近で左右対称的です。周期的で漠然とした痛みで悪心・嘔吐、冷汗などの自律神経症状を伴います。歩行や体動による悪化(増悪)はありません。

 

 たとえば、急性虫垂炎の痛みは初期には内臓痛として心窩部・臍周辺の鈍痛です。炎症により伸展された虫垂の被膜の刺激が心窩部に投影されるためです。

 

■体性痛(somatic  pain)

 内臓をとりまく腹膜や腸と腸の間にある腸間膜、横隔膜などの炎症や機械的刺激によって生じます。壁側腹膜の体性神経刺激(知覚神経)を介して起きる疼痛です。持続的で刺すような鋭い痛みで、疼痛部位は左右非対称で病変のある臓器の付近に限局します。体動や咳嗽で増悪します。

 

 急性虫垂炎では初期に感じた心窩部・臍周辺の内臓痛は、その後右下腹部に移動し持続的で差し込むような体性痛となります。

 

■関連痛(referred pain)

 関連痛とは、内臓から生じた疼痛がその本来の場所でなく、体壁(皮膚、筋肉)の別の部位から生じているように感じられる痛みのことです。脊髄で内臓からの知覚神経と皮膚からの知覚神経が集まり大脳皮質内臓痛を生じた部位と同一レベルの脊髄後根における体性知覚神経の刺激により、その神経が支配する領域に表在性の疼痛を感じます。

 

 

腹痛部位と消化器疾患

 

 腹痛は、消化器、泌尿器、婦人科領域、血管、筋肉、腹膜など腹腔内(ふくくうない)にあるあらゆる臓器・器官の変化で起こります。さらに、心臓、肺などの疾患でも起こります。色々な病気(疾患)のなかで腹痛を主症状とするものが最も多いのではないかと思われます。

 

 にもかかわらず、痛みの程度や部位、性質、随伴症状などで原因となる疾患がある程度推測できるのが腹痛でもあります。ここでは消化器疾患について説明します。

 

■心窩部痛

  • みぞおちの痛み」を心窩部痛といいます。心窩部で想定される臓器は食道・胃・十二指腸、胆嚢・膵臓、横行結腸、大動脈、心臓などがあります。
  • 虫垂炎は初期には心窩部痛として発症することが多く、「子宮附属器炎」も心窩部痛から発症することもあります。
  • 心筋梗塞などの心臓の病気でも、胸痛ではなく心窩部痛として発症することがあり注意が必要です(後述)。
  • 原因疾患:胃潰瘍、急性胃炎、アニサキス症、胃がん、機能性ディスペプシア、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、胆石胆嚢炎、総胆管結石、虫垂炎初期など。

 

■右季肋部痛

  • 右上腹部痛で想定される臓器は、胆嚢、十二指腸、肝臓、腎臓、肺などがあります。
  • 原因疾患:胆石胆嚢炎、十二指腸潰瘍、尿管結石、肝周囲炎、急性肝炎、胸膜炎など。

 

■左季肋部痛

  • 左上腹部痛で想定される臓器は、胃、膵臓、脾臓、腎臓、肺などがあります。
  • 原因疾患:胃潰瘍、胃炎、急性膵炎、尿管結石、胸膜炎など。

 

■右下腹部痛

  • 下腹部痛で想定される臓器は、大腸、小腸、子宮、卵巣、尿管、膀胱などがあります。
  • 虫垂は右下腹部にあるので通常は右下腹部に痛みを訴えますが、妊婦などでは虫垂の場所が移動していることもあります。痛みの場所が右下腹部とは限らないこともあるので注意が必要です。
  • 大腸憩室の好発部位は上行結腸とS状結腸なので、憩室炎は右下腹部~側腹部や左下腹部に痛みが出現します。
  • 右下腹部の憩室炎は虫垂炎と症状が似ているので、鑑別が困難なことも少なくありません。
  • 原因疾患:虫垂炎、大腸憩室炎、急性腸炎、便秘、大腸がん、過敏性腸症候群など。

 

■左下腹部痛

  • 下腹部痛で想定される臓器は、大腸、小腸、子宮、卵巣、尿管、膀胱などがあります。
  • 大腸憩室の好発部位は上行結腸とS状結腸なので、憩室炎は右下腹部~側腹部や左下腹部に痛みが出現します。
  • 原因疾患:大腸憩室炎、急性腸炎、炎症性腸炎(潰瘍性大腸炎)、虚血性腸炎、便秘、大腸がん、S状結腸軸捻転、過敏性腸症候群など。

 

■臍部痛

  • 臍(へそ)の周囲の痛みで想定される臓器は、胃、十二指腸、小腸、大腸、胆管、膵臓、子宮、卵巣、大動脈などがあります。
  • 原因疾患:虫垂炎初期、急性腸炎(小腸型)、胃潰瘍、胃炎、腸閉塞、クローン病、急性・慢性膵炎、膵がんなど。

 

■下腹部痛

  • 下腹部痛で想定される臓器は、大腸、小腸、子宮、卵巣、尿管、膀胱などがあります。
  • 原因疾患:虫垂炎、大腸炎、憩室炎、過敏性腸炎、便秘、腸閉塞、大腸がんなど。

 

 

 

 

腹痛部位と消化器以外の疾患

 

 腹痛の原因となる疾患は、お腹の中にある胃腸や肝臓・胆嚢・胆管・膵臓などの消化器以外にも、心臓、血管、肺、腎臓、卵巣・子宮などの臓器の異常でも起きることがあります。

 

■心臓・血管疾患(心筋梗塞、狭心症)

  • 「40歳以上の心窩部痛は心筋梗塞を疑え」という名言もあります。
  • 下壁梗塞では心窩部に痛みが放散することが多い。
  • 食事が誘因となることがあり、消化器疾患と間違われやすい。
  • 高齢者では「痛み」ではなく「吐き気」としてのみ感じることもあります。
  • 疑わなければ「見逃される」可能性があり、注意が必要。

 

■塞栓症または血栓症

腸管膜動脈塞栓症、腎梗塞など

 

■血管破綻

大動脈瘤破裂、大動脈解離など

 

■ 呼吸器疾患

肺炎、胸膜炎、肺塞栓、気胸、食道穿孔など

 

■泌尿器疾患

尿管結石、腎盂腎炎、尿閉、精巣捻転など

 

■代謝性疾患

糖尿病性ケトアシドーシス、副腎不全、高カルシウム血症などに

 

 ■婦人科疾患

子宮外妊娠破裂、骨盤内感染症、卵巣出血、卵巣軸捻転、月経痛など

 

 ■筋骨格疾患

帯状疱疹、腹直筋外傷、椎間板ヘルニアなど

 

 

 

内臓痛と関連痛の部位と原因臓器

 

 関連痛とは、脊髄で内臓からの知覚神経と皮膚からの知覚神経が集まり大脳皮質に伝達される時に、脊髄の同じレベルからの内臓神経痛を中枢が皮膚からの痛覚刺激として誤認識するために生じると考えられています。疾患によっては特徴的な関連痛発生部位があり、疾患を鑑別するうえで役立ちます。綿球や指先の爪で皮膚をなでると過敏な皮膚の領域が描けます。

 

  • 心筋梗塞(特に下壁梗塞)では心窩部痛や嘔気を認めることがあり消化器疾患と誤診されることがあり注意が必要。
  • 肺塞栓(上腹部痛)、胸膜炎(上腹部痛)、胆石発作(右肩の痛み)、虫垂炎(心窩部痛)などが有名。

 

 

腹痛診断のポイント

 

 腹痛の原因を調べる時に血液検査やエコーなどの画像検査も重要なのですが、症状の経過も診断に必要な情報となります。特に、「痛み」の発症様 式、時間経過は大切なポイントです。なかでも、数秒から数分間でピークに達するような突然の痛みは、消化管、胆管、血管などが閉塞したり、破裂したり、捻じれ て生じることがあります。

 

 医療機関受診の際には、以下のポイントについて説明できるようにしておきましょう。危険なサイン(徴候)としては、突然発症で最悪の痛み、増悪 していく痛み、夜眠れない痛み、歩くとき響く痛み、食事がとれない痛み、嘔吐や発熱が続くなどの項目に該当するようでしたら、医 療機関を受診することをお勧めします。

 

■腹痛の部位と期間

  • 腹痛部位 ☞ 腹痛部位と疾患
  • 腹痛部位の移動 ☞ 虫垂炎では初期は心窩部痛→後期は右下腹痛

 

■腹痛の発症様式(Onset)

 痛みは突然痛くなったのか? (どれくらいの時間で悪くなったか)

  • 突然発症(sudden onset):痛みはじめて数秒から数分でピークに達する様な突然の痛みの場合は下記を考える。

詰まった ☞ 心筋梗塞、腸間膜動脈閉塞、尿管結石、胆石

破れた ☞ 腹部大動脈破裂、大動脈解離、消化管穿孔、

捻じれた ☞ S状結腸軸捻転、卵巣軸捻転、精巣軸捻転

  • 急性発症(acute onset):突然発症ではないが急激に痛みが増悪する場合

捻じれた ☞ S状結腸軸捻転、卵巣軸捻転、精巣軸捻転

 

■痛みの増悪/緩解(和らぐ)

  • 食後に悪化する    ☞ 胃潰瘍、膵炎、胆石発作
  • 食後に楽になる    ☞ 十二指腸潰瘍、胃食道逆流症
  • 歩行や体動で悪化する ☞ 腹膜炎
  • 深呼吸で悪化する   ☞ 胸膜炎、肺炎、肋骨骨折、肝周囲炎
  • 臥位で悪化する    ☞ 胃食道逆流症、脊髄圧迫

 

時間経過はどうか

  • 痛みは徐々に増悪しているか?
  • 持続時間はどれくらいか?
  • 痛みのピークはいつか?

 

■痛みはどんな痛みか

  • 絞るような痛みか
  • 持続的な痛みか
  •  波のように繰り返す痛みか

 

■腹痛以外の症状は

  •  発熱はどうか
  • 吐き気、嘔吐は
  • 食欲はどうか、水分はとれるか
  • 排便はあるか  血便、黒色便、便秘、下痢
  • 排尿はどうか  頻尿、排尿時痛、血尿、尿の量は
  • 睡眠はどうか
  • 帯下・不整出血の有無(女性)

 

■既往

  • 手術したことがあるか  
  • 今まで入院したことはあるか
  • アレルギーの有無
  • 現在服用している薬剤・健康食品は
  • 月経歴、妊娠の有無