見た目:appearance

まずは、見た目:appearanceで、こどもの調子の悪さを直感できるかです。ぱっと見のPAT(Pediatric Assessment Triangle)を用います。PATは3つの要素で構成されていて、A:appearance、B:breathing、C:circulationとなっていま す。Aは見た目であり「見た目が悪い」とは実際はどこをみているのでしょうか?ぐったりしているか(四肢のくったり感視線が合うか(固視と追視)笑顔があるか(あやすと笑う)遊んでいるか(手足を動かしたり、舌圧子や聴診器に興味を示しているか)などになります。見た目が重要であることを証明したベルギーの有名な論文では、クリニックに受診した3,890人の感染症の小児患者において、初診時の主な徴候、 臨床評価、医師の直感で重症感染症の診断において、臨床症状が重篤でなくても、医師の直感で「悪い」と感じた患者が重篤疾患であるリスクが高い(尤度比 25.5、95%信頼区間 7.9-82.0)という結果でした。また、医師の経験とは必ずしも一致しないということで、見た目が悪いと感じる感性“gut feeling”は、研修医もベテランも差がないようです。Bは呼吸が速いか遅いか、胸骨上での陥没呼吸や喘鳴、クループ様呼吸、喉頭蓋炎による吸気性呼吸困難、気道異物による呼吸困難などがないかになります。Cは皮膚色蒼白、顔色が悪いや手足のチアノーゼ(まだら皮膚) 末梢冷感の有無などになります。などがあったら、毛細血管再充満時間(CRT:capillary refil time)爪を白くなるまで圧迫して、解除後2秒以内に赤みがもどるかどうかやってみましょう。心臓より高い位置でやる方が正確に評価出来ると言われています。また、水分摂取はできているか、おしっこは出ているかなどを聞き取ります。なんとなくおかしい違和感を感じたら、バイタルを測定して、小児科に紹介しましょう。

こどものバイタル

発熱

子どもが発熱すると、びっくりしますね。でも、落ち着いて! 高熱が出た=重病、とは限らないのです。とくに乳幼児は体温調節機能が未発達なこともあり、よく熱を出すもの。「元気に遊んでいるけれど、39度近い熱がある!」といったこともあります。発熱は、いろいろな病気の症状として現れますが、子どもの発熱でいちばん多いのはウイルスや細菌が原因の感染症を起こしたときです。病原体に対抗するために脳の体温中枢から体温を高くする指令が出て、発熱します。6カ月ごろまでの赤ちゃんは、ママの胎内にいるときにもらった免疫物質(抗体)の効果によって普通のかぜにはかかりにくいとされています。3カ月ごろまでの赤ちゃんはそもそも体温調節機能が未発達なため、病気ではなく、単なる着せすぎなどでも熱がこもってしまい、体温が38度以上になる、というケースも多くあります。発熱に気づいたら、まずは薄着にして、30分ほどたってからもう一度検温してみてください。衣類などを調節しても体温が38度以上ある場合、3カ月未満なら早めに受診しましょう。

年齢による基準があります。3ヶ月未満の乳児、3ヶ月〜3歳の乳幼児、3歳以上の子供に分けます。自身のクリニックで3ヶ月未満の乳児を診ることはほとんどありませんが、たつの揖保郡急病センターの当番日には、少なからずご対面します。教科書的には、3ヶ月以内の乳児を見たら小児科医に相談しましょうと書いてあります。3ヶ月未満の乳児の発熱の10%に認められる重症細菌感染症(髄膜炎、肺炎、腸炎、骨髄炎、敗血症、尿路感染症など)を見逃さないようにするにはどうしたら良いか?いろいろなクライテリアが考案されていますが、その判定には尿検査や血液検査(髄液検査)が含まれており、やはり何もできないセッティングでは小児科のいる病院へ紹介しなければなりませんね。3ヶ月〜3歳の乳幼児では、ワクチン接種歴を確認して、咳や鼻水など上気道症状がなければ、尿路感染症の検査が必要です。3歳以上の子供に多い発熱の原因としては、見逃しやすい疾患に川崎病、骨髄炎などが挙げらえます。

突発性発疹

突発性発疹は、大多数の赤ちゃんが最初に罹患するウイルス感染症で、突然の高熱と解熱前後の発疹が特徴です。お子さんが生まれてから初めての発熱として、保護者の方が直面することが多い病気です。初めての病気でしかも高熱が出るため、保護者の方はとても心配して病院に駆け込むことが多いです。原因となるウイルスは、ヒトヘルペスウイルス6・7(HHV-6、HHV-7)です。99%の人は、3歳までにこれらのウイルスに感染すると言われています。典型的には、まずはHHV-6の感染では、突然の高熱(38~40℃)が、3日間程度発熱が続き、解熱すると同時に発疹(丘疹様・紅斑様・斑状丘疹様)が、顔から体幹さらには四肢等に広がってゆき、3~4日で消失します。発熱、発疹以外には、下痢、瞼の腫れ、大泉門が腫れる、リンパ節が腫れるなどの症状が出ることもありますが、多くは発熱と発疹のみで経過します。多くは元気で合併症無く治癒しますが、10%に熱性けいれんや脳炎・脳症(HHV-6が脳のグリア細胞に親和性を持っている)などを合併することもあります。脳症などは発疹が出てくる病気の後半に発症する場合があるため、極端に機嫌が悪い、意識状態がいつもと違う場合には注意が必要です。HHV-7の感染は、HHV-6より遅れて1~4歳のことが多く、突発性発疹の経過をとります。したがって2度突発性発疹に罹患ということは不思議なことではありません。特効薬はなく自然治癒します。予防すべき病気ではありません。

診断は、咳や鼻水と言った感冒症状があまりなく、熱だけが出現しているということと月齢、年齢といった特徴を考慮し総合的に判断します。発疹出現をもって最終的に診断となります。永山斑(発症初期にのどに認められる小さな赤い隆起)を見つけることにより、発疹が出る前の発熱で予測できることもありますが、熱の後に発疹が出ることで診断となります。​発熱だけでは「突発性発疹症」と確定診断することはまずできません。

突発性発疹の3歳以上の人はすでに突発性発疹症の原因ウイルスであるHHV-6、HHV-7に感染しており、それが体内に潜んでいます。HHV-6、HHV-7は一度罹患すると終生体内に潜伏して、ウイルスの再活性化による発疹、DIHS(薬剤惹起過敏性症候群)などと関係していることがわかっています。そして唾液から少量のウイルスを常に排出しています。生まれてから6か月くらいまでは、お母さんからの移行抗体があるため、唾液に含まれる少量のウイルスが赤ちゃんの体内に入っても、移行抗体がウイルスをやっつけて発症することはあまりありません。しかし、母親からの移行抗体(受動免疫)が枯渇する10ヶ月前後に、体内に原因となるウイルスが入ってくると、突発性発疹として発症します。突発性発疹の多くは母親の唾液から感染します。(保育園などでに突発性発疹の患児から感染するのは少ない)

 

ヘルパンギーナ
手足口病
アデノウイルス感染症(プール熱)
単純ヘルペスウイルス感染症
EBウイルス感染症
インフルエンザ
A群溶連菌感染症
尿路感染症

川崎病

川崎病は、世界でも”Kawasaki disease”と呼ばれ、病名に日本人の名前がついています。川崎富作先生(日赤中央病院 小児科)が、1967年に「急性熱性皮膚粘膜りんぱ腺症候群」として発表された疾患です。この病気は世界各地で報告されていますが、特に日本人、日系アメリカ人、韓国人などアジア系の人々に多くみられます。原因は不明で、全身の中小の血管に炎症が生じるのではないかと考えられています。


川崎病(MCLS、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)診断の手引き

厚生労働省川崎病研究班 2002年改訂版

本症は、主として 4 歳以下の乳幼児に好発する原因不明の疾患で、その症候は以下の主要症状と参考条項 とに分けられる。
A 主要症状
(1)5日以上続く発熱(ただし、治療により 5日未満で解熱した場合も含む)
(2)両側眼球結膜の充血
(3)口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤 (4)不定形発疹
(5)四肢末端の変化:(急性期)手足の硬性浮腫、掌蹠ないしは指趾先端の紅斑
(回復期)指先からの膜様落屑
(6)急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹

6つの主要症状のうち5つ以上の症状を伴うものを本症とする。 ただし、上記6主要症状のうち、4つの症状しか認められなくても、経過中に断層心エコー法もしくは、 心血管造影法で、冠動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認され、他の疾患が除外されれば本症とする。

B 参考条項は省きます。家庭医のレベルでは、高熱が続いている小児を診た時に、ちょっと頭に浮かべられれば、OKと思います。(清書を参考にして下さい)

 

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両目が真っ赤になっているが(眼球結膜充血)目やにはないのが特徴です。

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口唇が紅をさしたように赤くなったり出血したり、口の中は粘膜が真っ赤に充血しますが、水ぶくれや潰瘍、偽膜などはありません。苺舌もみられます。

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首のリンパ節鶏卵大に腫大し、痛みを伴います。

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全身に、多型紅斑様の不定型の紅斑を認めます。はしかや風疹とは明らかに異なる発疹ですが、典型例でない場合は、似る場合もあります。

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急性期には、手掌や足の裏が真っ赤になってしもやけのように腫れますが、熱が下がって回復期には、指先(爪と皮膚との間)から皮がむけてきます。(膜様落屑

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主要症状のほかに、BCG接種部位が赤くなっています。


これらの写真は、日本川崎病学会のHPから拝借したので、正真正銘の川崎病の典型例です。これを参考に診断しております。

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日ごろ元気だった小児が、急に38度以上の熱が5日以上続き、ぐったりしてして重症感があれば、川崎病も急性熱症の鑑別診断に入ってくるわけですが、これらの特徴的な症状は同時に出るわけではありません。それぞれの症状の程度もかなり個人差があり、診断のむずかしいことが少なくありません。また、全身の血管炎のため、関節の痛み、下痢、腹部膨満などその他のいろいろな症状が出ることもあります。血液検査では、白血球・CRP(炎症反応)・肝細胞逸脱酵素が上昇し、ナトリウム、アルブミンが低下し、回復期に血小板が上昇します。


川崎病は、急性熱性疾患(急性期)と冠動脈障害(心疾患)を主とした回復期(後遺症)があります。急性期はふつう1~2週間で、自然に回復しますが、症状の強い場合は1ヶ月以上続くこともあり、ごく稀に敗血症、心筋炎等で、亡くなることもあります。川崎病は全身の血管に炎症を起こす病気なので、もっとも問題となるのは、心臓の筋肉に酸素や栄養を送る冠状動脈という血管に瘤ができる(後遺症)場合があることです。

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急性期の症状とともに冠動脈に血管炎がおこっています。ほとんどの症例は、そのまま炎症がおさまって事なきを得るのですが、急性期の炎症が強かったり発熱が10日以上続いたりすると、冠動脈瘤ができやすくなります。全患者の約10%前後の小児に冠状動脈瘤が起こりますが、軽度の拡張(通常3mm以下)は、数か月〜数年で、瘤がなくなって正常な冠動脈の太さに戻る場合もよく観察されます。1982年から免疫グロブリン大量療法が行われるようになり、急性期の冠動脈瘤は減りましたが、早期に免疫グロブリン製剤を投与しても効果がなく、巨大瘤(冠動脈径8mm以上)ができてしまう症例もあります。

巨大瘤(冠動脈の起始部や左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分かれ目のところができやすい)は、血管壁の肥厚は強くなって血管内腔が狭窄し、川崎病の発症から1年半以内に血栓ができてしまうと、小児が心筋梗塞を起こし最悪死亡するケースもあります。

川崎病にかかった子どもが将来どのような経過をたどるかは、全くわかってはいません。特に、冠状動脈に後遺症が残ってしまった子どもは定期的な検査を受けることが大切です。狭窄が出てくる時期は、いろいろで10年を経過してから出てくる場合が多いです。巨大瘤では発症後10年で約60%、15年で約70%の患者さんに冠動脈に狭窄や閉塞が見つかっています。

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全国調査では、毎年6,000人ぐらいの小児がかかっており(1982年と1986年の流行を除く)1990年代からしだいに増える傾向にあり、最近は10000人を超えてます。1歳をピークとして、主に4歳以下の乳幼児がかかり、男子が女子の約1.5倍です。再発することも2~3%あります。冠動脈に大きな瘤(冠動脈径8ミリ以上)ができる患者が毎年約0.5%(200人に1人)います。川崎病による死亡率は、最近では約0.05%、2,000人に1人となっています。

せき、ぜんめい

クループ症候群

クループ症候群とは、感染やアレルギー反応による急激な炎症や腫脹、異物などにより、のどの奥(喉頭)が狭くなり、空気が十分に吸い込めなくなったり、特有の咳が出たりする病気の総称です。一般的に、クループと呼ばれてお子さんに最も頻度が多いのは、この喉頭気管気管支炎です。喉頭およびその周辺の炎症性浮腫によって起こる上気道(声門下)の狭窄、閉塞によって吸気性喘鳴、犬吠様咳そう(オットセイの鳴き声様で、一般的にはケンケンと言われていますが、クウォ、クウォの方が近い)さ声、咳き込んで寝られないなどを主訴とし、息を吸うのが苦しくなり、ひどくなると、呼吸困難、チアノーゼが見られ、ヒューヒューして、息を吸うときに、左右の鎖骨の真ん中や肋骨と肋骨の間がペコンペコンと凹む苦しそうな呼吸(陥没呼吸)をするようになります。原因ウイルスは、パラインフルエンザが重要だが、インフルエンザ、RS、アデノなどいわゆる“風邪”ウイルスの感染によって起こります。好発年齢は6ヶ月〜5歳で1〜2歳にピーク、冬に多い。夜間に突然発症、悪化することが多い。安静時の吸気性の喘鳴と陥没呼吸を確認しましょう。以前は、ジフテリアによるものを真性クループと呼び、それ以外を仮性クループとしていたが、三種混合ワクチンの接種からジフテリアによるクループが皆無となり、現在は、クループ症候群としている。

声門下

クループでは声門の下が腫れて気管が狭くなるので(急性声門下喉頭炎とも言います)気管が刺激されて、激しい犬吠様咳がでます。嚥下痛や因疼痛はあまり訴えません。一方、急性喉頭蓋炎は、喉頭が腫れるので、嚥下痛のため飲み込みができなくなり、よだれが出るのが特徴です。咳はあまり出ません。

クループ症候群は、一般的に夜に症状が悪化します。治療は,ボスミン吸入(乳幼児で0.1〜0.2ml、学童で0.2〜0.3mlを3mlの生食で希釈)と全身性ステロイド(デキサメタゾンの注射もしくは内服)です。ボスミン吸入の効果は吸入後すぐに現れ、3-4時間は持続します。一方ステロイドは注射で使用しても効果が現れるまで4時間程度かかりますが、24時間以上持続します。クループ症候群はほとんどがウイルス疾患のため抗菌薬は不要(無効)です。通常、2、3日の経過で自然軽快しますが、喉頭気管気管支炎は、日中には改善傾向となりますが、夜になると再度悪化するという特徴があります。また、注意が必要なのは「ボスミン吸入後のリバウンド」があることです。前述の通りボスミン吸入の効果は3-4時間で切れてしまい、その際治療前よりも症状が悪化する場合があるので、またすぐに救急受診するようにしてもらえばよいのですが、自宅が病院から遠く離れているときは、入院で経過観察した方がいいかもしれません。軽症で安静時にstridorない場合は、デキサメサゾン(デカドロンエリキシル0.15mg/kg:およそ1ml/kg) 投与して、再診する必要のある症状(中等度の所見:安静時のstridorがあり、陥没呼吸ある)を指導して帰宅させて構いません。中等度の場合は、ボスミン(エピネフリン)の吸入に加え、デキサメサゾン(デカドロンエリキシル0.15mg/kg:およそ1ml/kg) 投与を行い、1時間程度は経過観察し、反応が悪ければ、小児科医に転送します。

クループ症候群

喉頭気管気管支炎の軽症例では加湿だけで症状が改善することがありますので、加湿器や洗濯物などで充分な加湿をしてください。大泣きをきっかけに症状が悪化することもありますので、激しい犬吠様咳などでクループ症候群と診断した場合は、喉を診たりして子供を泣かす様な診察は避けたほうがいいでしょう。喉頭は咳刺激に対して敏感なところなので、ちょっとした刺激で咳き込んでしまいます。刺激にならないように冷たい空気や、臭いの強い空気を避けましょう。寝かせるときは、肩枕(頭ではなく、肩の辺りに枕かタオルを敷く)をして、少し顎を挙げた姿勢にすると、楽になることがあります。

 

急性喉頭蓋炎

クループ症候群の中で最重症なのが、急性喉頭蓋炎です。急性喉頭蓋炎は、のどの奥にある蓋状の構造である喉頭蓋に炎症が起こり、急性の経過で致命的な窒息をきたす非常に重大な病気です。2〜7歳が好発年齢で、原因の大半はb型インフルエンザ桿菌(Hib)という細菌です。近年Hibワクチンが定期接種となり、有病率は大幅に減少しています。クループ症候群で認めるような特徴的な咳がみられることは少なく、突然の発熱、激しい咽頭痛、嚥下困難、流涎で発症し、頸部の過伸展(座った姿勢で前かがみになり、手をついて踏ん張る三脚姿勢をとって下あごを前に突き出して口を開けるような姿勢をとる)が特徴で、声は弱々しいか出ない、咳をしない。急速に症状が進行して窒息をきたす、非常に危険な病気です。すぐに救急車を呼び、泣くことで喉頭蓋の腫脹がさらにひどくなるのを防ぐため、上気道を刺激しないよう、こどもの不安感や恐怖感をできるだけ排除し安静を保ちつつ、血液検査や点滴などの痛い検査は後回しにして、すぐさま口か鼻から気管に管を入れて空気の通り道を確保する準備をしておきます。気道確保をしなかった場合の急性喉頭蓋炎の死亡率は6%です。窒息により意識を失ってしまったら、下の顎を上に挙げて空気の通り道を確保しながら人工呼吸、および心臓マッサージを行います。空気の通り道が確保できない場合には心臓マッサージだけでも継続します。

 

その他の原因としては、食べ物やおもちゃをのどに詰まらせることにより上気道狭窄をきたすこともあります。お子さんの口に入るサイズのおもちゃは手の届かないところに片付けておくよう日頃から注意しましょう。のどに詰まらせる可能性のある大きな食べ物は小さく切り分けてから与えるようにしましょう。もし、異物がのどに詰まってしまったら、肩甲骨の間の背中を手のひらで強く叩く背部叩打法、後ろから腹部に両手を回し、握りこぶしで手前上方に向かって突き上げる腹部突き上げ法を行い、異物除去を試みます。意識を失ってしまったら、救急要請とともに心肺蘇生を行います。

ウイルスや細菌、異物が関与しない上気道狭窄も存在し、痙性クループと呼ばれます。アレルギー反応による声門下の浮腫が原因と言われています。夜間突然息が苦しくなって目を覚まし、犬が吠えるような声の咳や、吸気性の喘鳴が出現しますが、先行する感冒症状や発熱は見られないことが多く、短時間ですぐに症状が消失するものの、同日内に、または数日間繰り返すことが特徴です。症状が強ければ、喉頭気管気管支炎と同様の治療を行うことがあります。

 

 

RSウイルス感染症(急性細気管支炎 )

RSウイルス感染症は、感染症法での5類の小児科定点把握疾患で、通常秋から増加し冬(12月〜1月がピーク)に流行する呼吸器感染症である。12月頃にピーク、年明けは徐々に減少し3月ころに落ち着くという流行パターンを呈します。インフルエンザは流行る年と流行らない年があるが、RSウイルスは毎年必ず流行します。RS(Respiratory syncytial virus)ウイルスは、感染すると年齢を問わず、風邪などの症状を引き起こすウイルスです。RSウイルスは接触や飛沫を介して何度も感染し、再感染のたびに症状は軽くなっていくので、年長児や大人は、軽い風邪程度(2-5日の潜伏期)ですが、2歳以下の乳幼児ではしばしば細気管支炎、肺炎を発症し、特に6ヶ月以下の乳児では入院加療を必要とすることが珍しくありません。

画像の説明

母胎からの移行抗体だけでは、残念ながらRSウイルス感染を防ぐことはできず、新生児を含め乳児早期に容易に感染します。出生後、最初の冬に半数以上が、2回目の冬にほぼ100%が初感染を受け、生後2歳までにほとんどのお子さんがかかるといわれています。症状は、軽い風邪のような症状から重い肺炎までさまざまですが、初めて感染した場合は重くなりやすく、新生児、乳児(1歳未満の赤ちゃん)が感染すると鼻汁や鼻閉塞から哺乳欲低下と多呼吸を呈したり、分泌物が増えてくると呼吸が止まる(無呼吸発作)など非常に重篤な症状を引き起こすことがあるため、注意が必要です。 特に6ヶ月未満の乳児にRSウイルスに初感染した場合は、細気管支炎、肺炎といった重篤な症状を引き起こし、呼吸困難等のために0.5〜2%で入院が必要となります。また、出生体重が軽く小さく生まれたお子さんや、慢性肺疾患、先天性心疾患、免疫不全がある場合には、細気管支炎や肺炎など重症化するリスクが高いことが知られています。よく「保育園・幼稚園でRSウイルスが流行っているから心配」と受診される方がいらっしゃいます。まずは、RSウイルスに感染して重症化するリスクのある年齢かどうかを判断する必要があります。2歳以上のお子さんは軽い「鼻風邪」で終わることが多く、1歳を越えていれば多くの場合には重症化するリスクは軽減していきます。1歳になるまでに50〜70%のお子さんがRSウイルスに感染します(2歳までにほぼ全員1回は感染します)。そして、何回も感染するのが特徴です。RSウイルスはどこにでもいる風邪のウイルスで、大人でも何回も感染し、年長児や大人に感染すると鼻の症状だけ引き起こすようなウイルスなのです。

生涯にわたって何度も感染し、幼児期に再感染がよく見られますが、2歳を過ぎた子どもや大人が感染しても、多くはかぜのような軽症で済むため、RSウイルス感染症とは気が付かずに乳児にうつしてしまうことが問題となるウイルスなので、自分自身や年長児の兄弟姉妹が風邪のような症状の時には、乳児にはなるべく近づかないようにしましょう。しかし、実際は症状が現れる前にも、周囲の人たちを感染させる力がありますし、症状が消えてからも、1〜3週間は周囲の人たちを感染させる力があるので、感染が広がりをくいとめるのは至難の業なのです。

 

画像の説明

RSウイルスによる気道の感染症の潜伏期は4〜5日程度です。感染経路は、飛沫感染、接触感染が主です。 まず、鼻水から始まります。そして38〜39度の発熱と咳が続きます。7割の乳幼児は通常のかぜのような症状で8〜15日で軽快しますが、残りの3割が重症化します。注意しなければならない兆候は、息を吐くときに「ヒュー、ヒュー」「ゼー、ゼー」と音がする(喘鳴)顔色や唇の色が悪い、胸がペコペコとへこむような呼吸をする、呼吸が速く、呼吸の回数が極端に増えている(1分間に60回)ような場合には、肺炎、気管支炎、細気管支炎などを発症している可能性があります。生後3か月未満の赤ちゃんでは、典型的な症状が出ない場合もあり、哺乳不良、活気不良、無呼吸発作、チアノーゼ(皮膚の色が紫色になる状態)などの症状を認めることもあります。無呼吸発作は命にかかわる重篤な症状ですので、細心の注意が必要な症状です。RSウイルスによる気道の感染症のために入院を要するこどもの大部分は、6か月以下の赤ちゃんです。

 

検査

診断は、鼻粘膜のぬぐい液を使用して、15分程度で検出するRSウイルス迅速診断キットもあるが、保険適用は、1歳未満の子どもと入院中、あるいは入院が必要と判断された患者、パリビズマブ製剤の適用となる患者です。それ以外の方は自費での検査となります。生後1〜2か月の赤ちゃんでRSウイルス感染症が疑われる場合、経過中に無呼吸発作などの重症な症状を呈する危険があるため、重症化する経過を予想し、入院し経過観察が必要かどうかを判断するために積極的に検査を行います。また、その他入院が必要な程度の症状を呈す場合も検査を行います。1歳以上のお子さんに関しては重症化のリスクは低く、以下にご説明する通り特別の治療法もないことから、治療方針を決定する上で、RSウイルス迅速検査で感染を特定する必要性はほとんどありません。

治療

RSウイルス自体に効果のある抗ウイルス薬はありませんので、症状に合わせて対症療法を行うのが基本的な治療です。去痰薬、解熱薬、理学療法(痰を出しやすくしたりする体位を取らせたり、吸入をしたりするもの)を行います。ご自身の免疫力で良くなるように体力の回復を助ける薬を内服したり、吸入などの処置で呼吸状態を改善してあげることが必要です。現在、重症化のリスクの高いお子さんに対して、重症化の抑制薬(抗RSウイルスモノクローナル抗体:商品名シナジス)を予防投与することが認められていますが、対象となっているのは在胎36週未満の早産のお子さん、および慢性肺疾患や先天性心疾患をお持ちの乳幼児のお子さんです。また、タバコの煙を吸うことは、RSウイルスによる気道の感染症の危険因子の一つと考えられています。こどものRSウイルスによる気道の感染症を防ぐためには、こどもの受動喫煙を防ぐことも大切です。

 

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シナジス(パリビズマブ)

RSウイルスに対するモノクローナル抗体「シナジス注」は乳児がRSウイルスの感染を受けても重症化しにくくします。予防接種ではありません。ウイルスの流行する9~10月頃から3~5月ころまでの間、毎月1回筋肉注射します。このお薬は、 生物由来製品 (マウスの成分、ウシの血液由来成分、羊毛由来成分)で、原料の汚染による感染のリスクはゼロではありませんが、副作用はほとんどありません。保険適応の適応は、当初は早産児や気管支肺異形成症などの疾患に限られていましたが、2005年から重症の先天性心疾患や免疫不全、ダウン症などにも認められるようになりました。とても高価なお薬(1回につき約80,000円~320,000円かかります。体重によって金額が異なります)で、健康保険の適応や乳幼児医療などの公的負担制度を併用すると負担金は大幅に減るものと思われますが、投与を希望される方は、小児科を標榜している医療機関にご相談ください。(当院では取り扱っておりません)

 

乳児は、主に鼻呼吸をしているため、鼻汁を吸ってあげるだけで呼吸状態がよくなることが知られています。家庭での鼻汁吸引の指導が大変有効です。

 

腹痛、嘔吐、下痢

皮疹

けいれん

熱性けいれん

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38℃ 以上の高熱に伴って乳幼児期に生ずるけいれん(ひきつけ)で、脳炎や髄膜炎(約1割が伴う)や脳炎など中枢神経感染症、代謝異常(低血糖)や電解質異常、てんなんなど、その他明らかなけいれんの原因となる病気のないものをいう。小児科へ救急車で運ばれることが最も多い病気である。

 

髄膜炎

脳を覆っている髄膜に炎症がおこる病態が「髄膜炎」です。髄膜炎は原因によっていくつかに分類されますが、細菌が原因である細菌(化膿)性髄膜炎と、主にウイルスが原因であるウイルス(無菌)性髄膜炎があります。 一般的な症状は熱、頭痛、吐き気、嘔吐等があり、場合によっては「けいれん」「意識障害」が認められます。 ウイルス性髄膜炎は細菌性と違ってやや軽いのですが、炎症が強いと脳がはれ、脳細胞を傷害して後遺症を残すこともあります。ウイルス性髄膜炎の原因ウイルスは、夏に多く、ムンプスウイルスとエンテロウイルスが有名です。

無菌性髄膜炎
一方で細菌性髄膜炎は、1年中いつでも発生します。元気な子どもでも、ふだんは鼻やのどにいる細菌が血液の中に入ることがあり、その菌が脳を包む髄膜について炎症を起こす病気です。そして最終的には脳そのものなどに病気を起こします。細菌性髄膜炎の原因菌は、ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型:Hib)と肺炎球菌です。
細菌性髄膜炎

 

髄膜炎の好発年齢はどうでしょうか。一番多い年齢は1歳未満です。生後5か月頃から急に増えます。また、3ヶ月以内の乳児で38.5℃以上の発熱がある場合は、要注意です。予防接種歴なども確認し、小児科医へのコンサルトが必要か考えましょう。

 

髄膜炎 年齢

髄膜炎

細菌性髄膜炎の原因となる主な菌は、ヒブ(1種類)と肺炎球菌(90種類ある中で病気を起こしやすい13種類)です。これらの菌は、ふだんは鼻やのどの奥にいて、普通は症状を出しません。保育所など小さな子どもが集団生活をする場では、ヒブや肺炎球菌の検査をすると、子どもたちの鼻などから良く見つかります。これは、そばにいる子どもや家族と、咳やくしゃみなどを通じて、菌の移し合いをしているからです。その結果、元気な子どもでもこれらの菌が血液の中に入り込むことがあり、脳を包む膜(髄膜)に入り込むと細菌性髄膜炎を引き起こします。集団保育の子どもは2~3倍かかりやすいと言われています。ヒブワクチン導入前の日本では、細菌性髄膜炎は毎年約1,000人がかかっていましたが、60%がヒブによるものでした。肺炎球菌は、2歳以下の子どもは免疫がほとんどなく、小児の肺炎球菌感染症は重症化することが多くなります。高齢者もかかりやすい病気です。細菌性髄膜炎や敗血症、重い肺炎や細菌性中耳炎などの病気を起こします。

初発症状は、発熱やおう吐(70%)などで、普通のかぜなどと区別がつきにくいのですが、発症後2日以内に、全身状態が急速に悪くなるのが特徴で、ぐったりして、顔色も不良で、これはやばい?と直感することが大事です。頭が痛くて大きな声で泣くこともできず、弱々しい泣き声でとにかく機嫌が悪いって感じです。その後、ぐったりする、けいれん、意識障害などが出てきます。髄膜炎の三徴は、発熱と項部硬直と意識障害です。(すべて揃うのは半分以下)診察では、大泉門の膨隆を認めます。必ずチェックしましょう。(1歳半で閉じていきます)

 治療は、抗生剤ですが、ヒブや肺炎球菌などの効かない菌(耐性菌)が増えているために、死亡や脳障害などの後遺症が残ってしまうことも多くあります。死亡する人がヒブでは約3~5%、肺炎球菌で約7~10% 脳の後遺症が30%くらいに残ります。また、後遺症が無いように見えても、中学生頃に軽度の知能低下が分かることもあります。
そのため、ワクチン接種による予防が大切です。病気が重いだけでなく早期診断が難しい上に、抗生物質(抗菌薬)が効かない菌も多いので、生後2か月になったらすぐに接種しましょう。

細菌性髄膜炎を予防するワクチンが導入される前の日本では、年間約1,000人の子どもが細菌性髄膜炎(昔は脳膜炎と言いました)にかかっていました。そのうち、ヒブによる髄膜炎に年間約600人、肺炎球菌による髄膜炎に約200人がかかり、2つの菌による髄膜炎で亡くなる子どもは50人近くにもなります。また、発症が10代後半に多い髄膜炎菌による髄膜炎もあります。

鹿児島県における小児細菌性髄膜炎の発生状況を調査したものです。(鹿児島県の小児細菌性髄膜炎サーベイランス)2008年からインフルエンザ菌によるもの、肺炎球菌による細菌性髄膜炎が急速に減少しています。これは、ヒブワクチンが2008年に任意接種(2013年から定期接種)となり、小児用肺炎球菌ワクチンは、2010年2月に任意接種(2013年から定期接種)で受けられるようになっています。(2013年11月からは従来の7価ワクチン(PCV7:7種類の肺炎球菌に予防効果がある)から13価ワクチン(PCV13:13種類の肺炎球菌に予防効果がある)に切り替わりました)ヒブ感染症が比較的多かった欧米では、ワクチン接種で、細菌性髄膜炎が99%減少しています。

鹿児島スタディ

脳炎

JCS20以上が24時間続く場合は急性脳症と定義され、髄液検査で細胞数増多があれば脳炎である。しかし、この定義であれば病初期に診断できない。脳炎、脳症に対するステロイドパルスが24時間以内で有効だという報告から、できるだけ早期に診断すべきである。24時間以内に診断するには、インフルエンザ脳症の診断基準に基づく

 

その他、よく診る疾患

 

起立性調節障害

起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、思春期前後の小児に多く見られる自律神経機能不全の一つです。人の身体は、起立すると重力によって血液が下半身に貯留し、静脈を経て心臓へ戻る血液量が減少し血圧が低下するので、これを防ぐために自律神経系の一つである交感神経が興奮して下半身の血管を収縮させ、心臓へ戻る血液量を増やし、血圧を維持します。しかし、自律神経の機能が低下した結果、このメカニズムが働かず、血圧が低下し脳血流が減少するため多彩な症状が表れます。起立時にたちくらみ、めまい、動悸、失神のほか、疲れやすい、腹痛、吐き気、嘔吐、頭痛、胸痛、食欲不振、朝起きられないなどの症状が見られます。

起立性調節障害

この疾患は自律神経疾患なので身体的要素以外に、精神的、環境的要素も関わって起こると考えられています。身体的要因のひとつとして、自律神経系が不安定になることが挙げられます。小学校高学年~中学生に多くみられますが、この時期は第二次性徴期とも重なり、体の様々な機能が大人へと変化していく時期です。この変化は自律神経系にも起こるため、循環器系の調節がうまくいかなくなることがあります。注意しなければいけないのは、あくまでも体の病気であり、本人が頑張ればどうにかなるということではありません。すべてを疾患として扱う必要はありませんが、生活に支障をきたしている場合は疾患として扱い、診察を受ける必要があります。また、頭痛や立ちくらみなどの症状は午前中に強く現れるため,朝起きられないというODの典型的な症状につながります。朝起きられないといった症状により日常生活に支障を来し不登校につながるケースや,身体疾患だと理解されず周囲から十分なサポートを受けられないケースも多い。血液検査や脳のCTなどでは異常が見つからないODは,心理的なストレスが関与する心身症や「ただの怠け」「不登校」と扱われていたのです。摂食障害とともに、思春期に、心身医学的な取組みが必要となる疾患です。起立性調節障害小児の3分の2が不登校で、不登校小児の約半数が起立性調節障害を合併していたというデータもあります。約80%に家族素因を認め、自律神経機能、生活習慣(水分の摂取不足や日常の活動量低下→ 筋力低下と自律神経機能悪化→ 下半身への過剰な血液移動→ 脳血流低下→ 活動量低下というdeconditioningが形成されるとさらに増悪)心理社会的ストレス(学校ストレスや家庭ストレス)が大きく影響します。

自律神経系を介するさまざまな不定愁訴を伴いますが、特に循環調節障害に基づく身体症状が中心である。立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛などで、朝起きが悪く、ごろごろと寝てばかりいて、午後になるとようく元気になり、そのためか夜はなかなか寝付けず、夜更かし朝寝坊が定着してしまい、毎日の登校に支障をきたし、不登校 になったり、怠け者のレッテルを貼られたりすることもあります。重症例では、夜まで倦怠感が続いたり、昼夜逆転したりするものもいます。精神症状を伴うことも多く、強い不安、抑 うつ感情、焦燥感、集中力、作業能力の低下などがみられます。起立性調節障害の典型的な症状は、「立ちくらみ」「疲れやすい」「長時間立っていられない」などで、症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。日本学校保健会が平成22年に中学生女子を対象に行った調査による自覚症状の頻度です。

起立性調節障害

 

小学校高学年から増加し始め、中学生、高校生になるとおよそ4人に1人が起立性調節障害(OD)を抱えているということがわかります。また、男子よりも女子の方が症状を抱えている人の割合が多い傾向があります。思春期に起こりやすく、10~16歳の小学校から高校の就学期の発症が高く、有病率は、小学生の約5%、中学生の約10%とされ、男:女=1:1.5 ~2です。

起立性調節障害

 

診断

貧血や心臓の病気、甲状腺機能亢進症、あるいはてんかんなど他の病気を除外した上で、質問項目でチェックし診断基準を満たせば、起立性調節障害を疑い、起立血圧試験をおこないます。

OD

 

起立血圧試験

10分間安静臥床後、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、心電図を記録します。自分で立ち上がって、立位直後と5 分、10 分ぐらいで測定しています。ふらつき、動悸、頭痛、倦怠感などの症状をチェック。低血圧発作が起これば検査を中止。 午前中に測定する方が陽性所見が出やすい。 測定の条件によって測定結果が変わるため、1回の検査ですべてを判定しない。

起立試験を実施し、以下の4つのサブタイプに判別します。

(1)起立直後性低血圧 起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかるタイプ。

(2)体位性頻脈症候群 血圧の回復に異常はないが、起立後心拍が上昇したままのタイプ。

(3)血管迷走神経性失神 起立中に急激な血圧低下によっていきなり失神するタイプ。

(4)遷延性起立性低血圧 起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神に至るタイプ。

起立性調節障害では、立ち上がった時に血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。(1)起立直後性低血圧(instantaneous orthostatic hypotension:INOH)が最も多く、起立直後に一過性の強い血圧低下を認め、同時に眼前暗黒感などの強い立ちくらみを覚える。頻脈も伴うことが多い。 末梢血管交感神経活動の低下により細動脈の収縮不全があると考えられる。更に静脈系への貯留も顕著で、静脈還流が低下すれば、拡張期圧も上昇し脈圧が低下する。臨床症状では、立位で増強する倦怠感(慢性疲労)立ちくらみ、食欲不振、朝起 き不良などが多い。次に多いのが(2)体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome:POTS)です。起立失調症状は認めるが、起立中の血圧低下を伴わず、起立時頻脈を認めるものである。(1分間に21以上増えるなど)起立中の腹部、下肢への血液貯留に対して過剰な交感神経興奮、エピネフリンの過剰分泌が生ずると考えられる。臨床症状では、頭痛と倦怠感を示すことが多いようである。(3) 神経調節性失神(neurally-mediated-syncope:NMS)は、起立中に突然に収縮期と拡張期血圧低下をきたし、起立失調症状が出現、立って いられなくなり、失神、失神前状態を生ずる。顔面蒼白、冷汗などの前駆症状を 伴うこともある。 血管迷走神経性発作による。起立中の頻脈、静脈還流の低下により、心臓が空打ち状態となり、その刺激で反射的におこるとされている。。(4)遷延性起立性低血圧(delayed orthostatic hypotension)起立数分以降に血圧が徐々に下降し、起立失調症状が出現する。 起立中の静脈還流低下による心拍出量減少に対して、代償的な末梢血管支配交感神経活動の上昇が不十分であると考えられる。

 

治療

前提として、ODは身体疾患であると保護者が真に理解することです。保護者がODを身体疾患だと理解していない場合、どこかで怠けだと思ってつい「早く起きなさい」「学校に行かないと」などと子どもに口うるさく言ってしまうことがあります。このような誤った対応は親子関係の悪化を招きかねませんし、問題の根本的な解決にはつながりません。また、子ども自身が治療に当事者意識を持ち、子どもが自主的に治療に取り組むことが大切です。ODの治療には大きく薬物療法と非薬物療法があります。ODの症状を改善するには、まずは生活習慣改善などの非薬物療法が重要な役割を持ちます。中等症以上では薬物療法も併用されます。

非薬物療法(日常生活上の工夫)
(1)水分2L、塩分10gを目安に摂る

起立性調節障害の子どもは、血液量が少ないので、循環している血液量を増やすために、水分と塩分をしっかりと摂りましょう。水分摂取については、最低1日2L必要です。OD の子どもは塩辛いものを好まない。循環血漿量を増すため、 多めの食塩摂取(食塩 10g~12g)を摂る必要があります。目安としては、食事以外に2Lの水分と、食事を通して10gの塩分です。1日3食、おいしいと感じる味がついている食事をすれば1日7g程度の塩分は摂れていますが、起きられずに朝食を抜かしてしまうとその分不足してしまうので、意識的に塩分を摂るようにしましょう。

(2) 日中は寝転がらない
OD の多くは運動が嫌い。ごろごろばかりにならないように指導する。自律神経系は、人間が活動をしやすいように、様々な体の状態を調節しています。起床後もゴロゴロしていると、自律神経系がそのゴロゴロした姿勢にあうように体を調節します。すると、さらに起立しづらくなるという悪循環を生むので、日中は体を横にしないようにしましょう。立ち上がることはできなくても、座ったり、どうしても寝たい時は上半身をあげるようにするなどして頭の位置を心臓よりも高くし、高い位置に血液を送るための調節を自律神経が忘れないようにすることが大切です。運動療法として、毎日の散歩程度の運動をすすめる。歩き始めは頭位を前屈させる。たとえば 1 日 15 分の歩行。心拍数が 120 を越えない程度の軽い運動(腹筋などの臥位でおこなう運動など

(3)起立するときはゆっくり立ち、長時間の起立はできるだけ避ける
起立性調節障害の子どもは立ち上がるときの調節が苦手なので、急に立たずにゆっくり立ち上がり、起立の必要がある時は足踏みしたり足をクロスに交差する、うつむきながら起立して最後に頭を上げるようにします。長時間同じ姿勢で起立していると下半身に血液がたまり、頭の血液が不足がちになります。できるだけ避け、どうしても立っている必要があるときには、足を動かしたり、クロスさせたりしましょう。下半身にたまっていた血液を筋肉で押し戻すことができます。肉体操作;起立時には、いきなり立ち上がらずに、30 秒程かけてゆっくり起立。 歩行開始時は、頭位を前屈させれば、脳血流が低下しないので起立時の失神を予 防できる。起立中に、足踏みをする。両足をクロスに交叉する。更に頭を前屈する。

(4)ストレスコントロールをする
起立性調節障害は自律神経系の病気で、自律神経系は心の影響を受けやすいので、ストレスは症状悪化の大きな要因になります。症状がひどく学校に行けないことを子どもたちは非常につらく感じています。その苦痛を理解し、頑張っていることを評価することがとても重要です。「午後からなら登校できる、行事や部活動なら行ける、遊びになら行ける」などは体調が万全でないときの起立性調節障害の子どもには良くあることです。心の負担なくこれらができるように、症状があっても充実した生活ができるように、周囲で協力して見守りましょう。

(5)疾病教育、環境調整を行う
中等症や重症の多くは倦怠感や立ちくらみなどの症状が強く、朝に起床困難があり遅刻や欠席をくり返していますが、保護者の多くは、子どもの症状を「怠け癖」や、ゲームやスマホへの耽溺、夜更かし、学校嫌いなどが原因だと考えて、叱責したり朝に無理やり起こそうとして、親子関係が悪化することが少なくありません。本人と保護者に対して、「起立性調節障害は身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解を促すことが重要です。子どもの心理的ストレスを軽減することが最も重要です。保護者、学校関係者が起立性調節障害を十分に理解し、医療機関―学校との連携を深め、全体で子どもを見守る体制を整えましょう。日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2~3ヶ月で改善しますが、学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2~3年以上を要する場合もあります。

(6)規則正しい生活リズムのすすめ
夜更かし、朝寝坊を める。昼寝をしない。など 最も難しいが、強制してストレスにならないようにその子にあわせて指導する。

(7)暑い場所は避ける。 高温の場所では、末梢血管は動脈、静脈とも拡張し、また発汗によって脱水をお こし、血圧が低下する。入浴は短時間。梅雨、夏場は注意。

(8)下半身圧迫装具 下半身への血液貯留を防ぎ、血圧低下を防止する装具(弾性ストッキング OD バ ンドのような加圧式腹部バンド)は、適切に利用すると効果あり。

薬物療法としては、メトリジン®(ミトドリン)α受容体刺激薬であり抵抗血管である細動脈と容量血管である静脈の両方に作用し、かつ、頻脈などの副作用も起こしにくい。1 回 2mg1 日 2〜3 回食後に服用。かまずに服用できるD錠あり。また、ジヒデルゴット®(ジヒデルエルゴタミン)POTS、遷延性起立性低血圧には効果があると推測されるが確証はない。リズミック®(アメジニウム)副作用で頻脈を生じることがあり、頻脈を伴う場合は使用しないほうが良い。薬物療法を実施した場合の効果判定は、2週間を目途に実施します。保護者の方には、「治療には時間がかかるので、焦らないように」と伝えておきます。本疾患の予後改善には、学校への指導や連携が不可欠となります。教員にはガイドラインの内容を説明し,その子どもが怠けているのではなく病気なのだと理解して適切な支援をするよう求めています。具体的には長時間の静止状態での起立や暑気を避ける、遅刻での登校を認める、さらにはクラスメートの理解を得るなどです。