嘔吐下痢症(感染性胃腸炎)

今年は「新型ノロウイルス」が大流行の兆しなど新聞の見出しがみられますが、激しい嘔吐や下痢を引き起こすノロウイルスが変異して、すべての人が免疫を持たない新型となり、国内で感染が広がっていることが川崎市健康安全研究所などの調査で分りました。ノロウイルスは遺伝子の違いによって40種類以上存在していますが、最近だと2006年と2012年の大流行が記憶に新しいですが、より少量の菌数で感染症を引き起こし、その潜伏時間も10数時間~数日と短くなっていました。つまり、非常に感染力が高まっており、より危険な型に進化していると言えるのでしょうか。

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例年、 感染性胃腸炎(ノロ、ロタ、コクサッキー、アデノなど。9割以上がノロウイルス)は、10月から11月にかけて増加しはじめ、12月の中旬頃に流行のピークを迎えます。(サルモネラ、赤痢、O-157等など細菌による場合は夏場に多いのに対し、ウイルスによる場合は冬場に多い)

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毎年冬になると家族内、保育園、幼稚園などで感染性胃腸炎が流行し「おなかのかぜ」として、小児科では嘔吐下痢症と呼ぶことが多いようです。冬の前半はノロウイルスが多く、後半には症状の重いロタウイルスが増えてくる傾向があります。ノロウイルスは、平成23年に介護施設や老人ホームで集団感染が起こり有名になりましたが、食中毒としても一年中認められ、生ガキの食中毒が有名です。

ノロウイルスによる嘔吐下痢は、生カキを食することによって発生する食中毒はよく知られていますが、発端は食中毒であったとしても、施設や病院等に持ち込まれると感染症として流行する場合があります。ノロウイルスの感染力は非常に強く、僅かなウイルスが口の中に入るだけで感染するので、衛生観念が発達していない乳幼児施設や小学校、高齢者施設などの集団生活施設ではしばしば集団感染として爆発的に拡がる場合には、その主たる原因が集団食中毒によるものか、あるいは発端者を中心としたヒト-ヒト感染によるものか判別できないことがしばしばあるのです。

また最近では調理従事者や配膳者がノロウイルスに汚染された手指で食材をさわることによって、サラダやパンなどの貝類とは関係のない食材による集団食中毒も報告されています。また、嘔吐物や下痢便が放置されていたり、処理の仕方が誤っている場合に、ウイルスを含んだ乾燥した嘔吐物や下痢便のかけらが風に乗って舞い上がり、そばを通った人が吸い込んだり、その人の体に付着して、最終的には口の中にウイルスが入ることによって感染する場合もあります。

ノロウイルスにはワクチンもなく、その感染を予防することは容易ではありません。なお、感染性胃腸炎が治った後でも1週間程度、長い場合は1か月に渡って便中にウイルスが排泄されるといわれています。また、不顕性感染(無症状)でノロウイルスを便から排出し続けている場合もあります。一旦施設内に持ち込まれてしまえば、完璧に防御することは困難であるといわざるを得ません。よって、流行期間中は知らない間に感染源となってしまうもともありますから、調理従事者は、調理室から搬出される食事にノロウイルスを皆無とするためには、調理中はマスクをきちんと着用し、食材を触る時に、手袋を着用することも場合は、その手袋が清潔であることは勿論のこと、着用する前の手指は清潔でなければなりません。そのためには石鹸による手洗いを徹底することが重要です。

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感染を広げないためには、嘔吐物の処理が大切です

ノロウイルス感染症の場合、その嘔吐物や下痢便には、大量のノロウイルスが含まれています。そしてわずかな量のウイルスが体内に入っただけで、容易に感染します。また、ノロウイルスは塩素系消毒剤でなければ消毒できません(細菌感染によく用いられる塩化ベンザルコニウム(オスバン)は無効ですし、アルコールも効果が低い場合が多いです)

可能であれば、嘔吐物からできる限り(最低2m以上)遠くに患者、入所者、児童・生徒等を遠ざけてましょう。もしトイレならば処理が終わるまでは使用させないようにします。そして、できるだけ速やかに処理する必要があります。処理する人は、エプロン、マスク、手袋(この場合の手袋は清潔である必要はありません)を着用します。まず、嘔吐物に新聞紙を覆い、じょうろで薄めた塩素系消毒剤(200 ppm:ハイター等の家庭用漂白剤では200倍程度)を掛けます。嘔吐物のあった箇所を中心に周囲2mぐらいまで飛び散っていると想定し、広めにペーパータオルなどでしっかりと拭き取ります。拭き取った新聞、ペーパータオルと手袋、エプロン等はビニール袋に入れて、密封して破棄します。(次亜塩素酸ナトリウムは、濃度が200 ppmでは5分間、1000 ppmでは1分間程度浸すことによって、ノロウイルスをほぼ死滅させる消毒効果があるといわれています)塩素系消毒剤の原液を直接用いると、使用場所に塩素ガスが発生しますので、集団生活施設や病院では奨められません。嘔吐物や下痢便で汚れた衣類、リネン等は、バケツなどでまず水洗いし、更に塩素系消毒剤(200 ppm以上)に浸して消毒することをお勧めします。

 

 

子供はなんでも吐きます

胃腸が悪くて吐く、咳がひどくて吐く、頭痛がひどくて吐く、急に熱がでて吐く、喘息で吐く、未熟なために吐く、薬がいやで吐く、便秘でも吐くなど病態も様々で、クリテイカルな病気を除外することが重要ですが、最も頻度の高い嘔吐下痢症について説明しましょう。

感染したヒトの糞便や吐物を介して経口感染します。ノロウイルスは感染すると24~48時間ほどの潜伏期間を経て、元気で食欲もあった状態から、突然、顔色が悪くなり嘔吐が始まるのが、ノロウイルスによる嘔吐下痢症の典型的なパターンです。発症から3~6時間程度は、機能性麻痺性イレウスの状態で、腸は動きが止まって周期的(1回~10回程度)に食べたものを大量に吐きます。(回数が多い場合はしだいに黄色い胃液に)吐き気が強い時は、吐き気止めの薬を使っても症状はなかなか改善しないので、水分も与えないようにして様子を見ます。(この時点での脱水はごく軽度で気にするほどではありません) 発熱はないか軽度で(時に高熱も)や腹痛も軽度です。下痢は、嘔吐が治まってからですが、数日前から認める場合やがあります。(血便は通常ありません)小児では嘔吐が多く、成人では下痢が多いことも特徴の1つです。6時間程度で嘔吐はおさまって元気が戻ってきて顔色も改善します。ここから麦茶、リンゴ果汁など水分をごく少量ずつ(幼児なら5~10cc程度)様子を見て少しづつ与えます。(水分を取るペースが速いとまた吐いてしまいます)乳児なら母乳かやや薄め(70〜80%)に作ったミルクでも良いでしょう。また、中等度以上の脱水では大塚製薬のOS-1というORS(経口補水液)がよいでしょう。通常1~3日で治癒しますが、乳幼児や高齢者では重症化することもあります。